
かつて宿場町として栄えた町並みを眺めながら歩いていると、江戸時代の日本を肌で感じ取れるだろう。
全国には、今もそのような町並みを残す町が点在しており、日本の歴史や文化に触れられる貴重な体験ができます。私にとっては、旅を続けながら宿場町へ立ち寄るのが、楽しみで仕方ありません。
本日の自転車旅では、岡山県小田郡矢掛町にある矢掛宿へ訪れます。旅のスタートは悩みましたが、矢掛町の西隣にある井原市から始めることにしました。
道中では、嫁入らず観音院へ参拝したり、小田川を横目で眺めながら自転車を疾走するのが気持ち良かったですね。そして、最後に訪れた総社市の備中国分寺では、嬉しいサプライズにご満悦でした。
本記事では、井原市から矢掛町を経由して、総社市へ向かった自転車旅の様子をお届けします。
井原駅から旅立つ

旅の始まりは、岡山県井原市の玄関口となる井原駅からです。
残念ながら空を見上げると、ドンヨリとした曇り空。そのためか、テンションがあまり上がらない。しかし、天気予報によれば次第に晴れてくるそうなので、それに期待します。
久しぶりに井原駅へ来ましたが、相変わらず駅舎のデザインがカッコイイですね。特に天を衝くようなガラス張りの巨大な三角錐は、初めて見た時は衝撃的でした。

何でもご当地にゆかりのある那須与一の弓矢を模したものなんだとか。那須与一といえば、源平合戦のおり屋島の戦いにて、平家の軍船に掲げられた扇の的を射落としヒーローですよ。
以前、香川県にある屋島へ旅をしましたが、そこで那須与一の縁ある場所を訪れたことがあるので良く覚えています。
それにしても個人的には、「那須与一 = 屋島」という認識だったので、井原市とも縁があるとは驚きです。

おっ、ここに立つと那須与一が扇の的を射た風景が見えるそうな。
たしかに、扇の丸の中には三角錐の頂点が見えるぞ。なるほど~、この距離を当てたということかな。もしそうだとしたら凄すぎます。
さて、面白い演出も見られたことですし、それではそろそろ旅立ちますか。
ということで、本日の最初の目的となる「嫁入らず観音院」へ向けて自転車を発進させました。

井原駅前通りを北上して、最初の信号機のある交差点を左折。そのまま道なりに進む。
井原駅から嫁入らず観音院までは、約3.5kmほど。ロードバイクであればご近所と呼べる範囲です。
ちなみに、井原駅から西へ約5kmほど走れば広島県福山市へ入るのだから、岡山市へ向かうより、断然福山市の方が近かったりします。
しばらくして下御領井原線(県道102号)へ合流すると、この県道に沿って緩やかな坂道を駆け上りました。
道すがらには、井原運動公園や井原高等学校などが見えてくる。井原運動公園には、弓道場があるというのだから、まさに那須与一の気分を味わえます。

そんな感じでゆっくりと自転車を走らせていると、道の沿岸に面白いものを発見。「曼荼羅(まんだら)石碑」というそうだ。
梵字が曼荼羅模様になっており、エキゾチックな感じがするぞ。井原市内には、このような路傍に気になる石が多く存在しているとのこと。このような石を探しながら、町歩きをするのも楽しそうですね。
しばらくすると、前方に大きな相原池が見えてきましたので、左折して道なりに進むと嫁入らず観音院へ辿り着きました。
嫁入らず観音院へお参り

初めて「嫁いらず観音院」という名前を聞くと、「嫁さんは入らないとはどういうこと?」と不思議に思う人が多いと思います。
かくゆう私もそうでしたので、よく覚えているぞ。実は、参拝すれば嫁の手を煩わさずに健康に生涯を過ごせるというものなので、嫁不要とは全く関係ありません。
嫁入らず観音院へ訪れて一番最初に目に入るのは、「聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)」でしょう。
土台を含めると高さ約12m、重さ88tとなるほどのビッグサイズ。その大きさは、国内最大級の観音様なのだから度肝を抜かれます。
まずは、本堂にお参りをすると境内を散策しました。

嫁いらず観音院では、わずか15~20分程度で西国三十三観音霊場のミニ巡礼ができるというのだから、参加しない手はありません。
ということで、樋の尻山(ひのしりやま)の麓から頂上を目指してレッツゴー♪
樋の尻山を一周すれば二十九の霊場を巡ったことになり、残り4つの霊場は、樋の尻山を囲む4つの山に各1つずつあります。
樋の尻山は急坂が続きますが、この前訪れた湯次神社の「りゅうごん様」へ向かう登山道(湯次神社については、こちらの記事で紹介)と比べると、道はしっかりと整備されているので歩きやすいですね。
それに私自身、少しは冬の間の運動不足が解消されたみたいで、山道を歩く足にも比較的活力を感じます。道中では、可愛らしい石仏(観音像)に挨拶したり、奥の院を参拝しました。

また、山頂は空が開けているので、気持ちがよいぞ。私が訪れた日は、木々の枝が伸びすぎていて、眼下の景色がよく見えなかったのが残念でしたね。
けれど、しだいに青空が広がっていき、周囲が陽光に照らされて明るくなっていく風景が見られたのは、印象的でした。


その後、樋の尻山を下ると、嫁入らず観音院から100mも離れていないところにあった観音農村広場へ足を運んだ次第です。
周囲にある相原公園は、桜の名所として知られており、井原市民の憩いの場なんだそうな。この場所で、桜シーズンにキャンプするのも楽しそうですね。

キャンプ場に沿った形で山道が奥へ続いており、「嫁入らず観音院」と書かれたのぼり旗が、風ではためいています。
間違いなく、西国三十三観音霊場の一つだろうな。まだ少し時間に余裕があるので、山道を登ってみることにしました。

う~む、山道は足元が悪く、樋の尻山より歩きにくい。
人にもよると思いますが、個人的には樋の尻山より疲れるぞ。

そんな山道を一歩づつ確実に登っていくと、目の前に巨岩と小さな祠が見えてきた。麓から距離はそれほど離れていなくて、約5分ぐらいで登った感じでしたね。
先ほど見かけたのぼり旗もあり、どうみてもここが目的の場所でしょう。特別感があります。

祠へ向けて急いで近づくと、「西国第四番 槙尾寺」と刻まれた石碑が地面に立てられているではないですか。
それに巨岩には、観音様が掘られています。息を整えて参拝をすますと、来た道を引き返し嫁入らず観音院を後にしました。
嫁入らず観音院については、下記関連記事でくわしく紹介します。
矢掛宿へ向かう道中にて

再び井原市街へ入ると、西国街道を経由して、旧井笠鉄道本線跡通りを東へ向けて駆け抜ける。しばらくすると、旧井笠鉄道本線跡通りを離れて、小田川沿いに整備された細い道へ入りました。
次に向かうのは矢掛町ですね。ここには、本日の一番の目的地である「矢掛宿(やかげしゅく)」があります。
矢掛宿は、かつて山陽道の宿場町として栄えており、今でも江戸時代から近代に建てられた町並みを楽しめる場所だ。大河ドラマで話題となった「篤姫」が滞在した場所としても知られているぞ。


天候はすっかりと回復しており、少し薄い雲が残っていますが、実にいい天気ですね。のどかな風景と相まって、気持ちよく自転車を走らせます。
小田川といえば、2018年7月に起きた西日本豪雨の災害はまだ記憶に新しい。
河川の氾濫や浸水害、土砂災害等が発生して多くの死者や重軽傷者を出しました。近隣では、窓ガラスが爆音とともに砕け散り、家具が倒れこんだりしてかなり大変だったそうです。
特に倉敷市真備町は地区の3割が水没するほどの大惨事となり、テレビ中継されたので知っている人も多いでしょう。
前の目を流れる小田川からは、そのような大災害を引き起こした面影を感じませんが、自然災害というのはいつ起こるのか分からないので、常に備えておきたいですね。

小田川には多くの橋が架かっており、その中にある「観音橋」の前を通り抜けようとした時に、面白いものを発見。
なんと欄干には、籠の絵が彫刻されています。旅先で色々な橋を見ていると、橋自体のデザインだけでなく、フルーツや歴史上の人物の像など様々なオブジェが飾られていたりするので面白いですね。



自転車のペダルを回しながら、ゆっくりと自転車を走らせる。スピードを上げて駆け抜けるスタイルも楽しいですが、のんびり走らせるのも大好き。
急ぐ必要がなければ、のんびり走りながら気になるものを見つけたら、自転車を停めて見物するのが私のスタイルです。
そのため、距離に対して意外に時間がかかることが多いのが難点かな。けれど、旅というのはマイペースの方が断然面白いので、改める気にはなりません。
ずっと小田川沿いを走ってきましたが、そろそろ矢掛町の市街地へ向かうため、向山橋を渡り北上。

山陽ふるさと街道(国道486号)へ合流しますが、道なりに進むのではなく、さらに北側へ抜けて旧中世山陽道に入ります。
そして、右折して星田川沿いを進むと矢掛市街へ入りました。
【自転車旅に役立つアイテムの紹介】
自転車旅に役立つ様々なアイテムを、下記記事で紹介します。
矢掛宿の町並みを見物する

矢掛町へ入って、まず始めに訪れたのは矢掛駅です。矢掛の玄関口となる駅舎のデザインは、宿場町をイメージしている和風建築のため、趣きを感じるぞ。
矢掛町は、岡山県の南西部に位置する町であり、県下の町村では最も人口が多い。矢掛市街地と小田市街地の二つの市街地を持っており、特に旧山陽道沿いには、中心市街地として今も古い町並みを残しています。
地域によっては、倉敷や福山圏のベッドタウン化が緩やかに進んでいたりする。近年では、若者を中心に観光客を集めているかな。個人的には、観光地としてのイメージが大きいですね。


矢掛駅から少し離れた所にある綿屋小路を南下していると、「太陽美術館」を発見。壁面に描かれた太陽がいい感じ。
また、近くにある「やかげ郷土美術館」前を通りかかると、高さ16mもある水見やぐらがお出迎えしてくれます。
このやぐらは、町木の赤松を使った伝統工法による建築物なんだそうな。やぐらを登ると、眼下には矢掛の町並みを見渡せますね。

旧山陽道へ辿り着くと、街道沿いの約800mにわたり、漆喰塗込の重厚な町家が軒を並べており、その景観は見事なり。
これ、この景観ですよ。これが見たくて本日の旅を決行したのだから、嬉しさもひとしおです。
全国には数多くの宿場町が残っていますが、本陣(旧矢掛本陣石井家住宅)と脇本陣(旧脇本陣高草家住宅)の両方が現存しているのは、矢掛宿のみですね。
本陣へ向かう前に、まず始めに立ち寄ったのが「矢掛ビジターセンター問屋(といや)」です。

矢掛ビジターセンター問屋は、江戸時代には「因幡屋」という屋号で、宿場から宿場へ公用の貨客を運ぶ馬や、飛脚業務を担っていました。
今では観光案内所となっていますが、館内は一般公開されているので見学していくことに。

1階には、美しい和の空間が醸し出す日本家屋の落ち着いた佇まいがいいですね。
ちょうど私が訪れた時期が3月だったこともあり、雛壇が飾られていました。うん、こういうのを見ると、日本人の伝統文化に誇らしさを感じます。

和室の奥には、ちょっとした日本庭園があるぞ。当時の人たちも和室から庭園を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごしていたのだろうな。
樹齢100年ほどと思われる黒松が良い感じ。高さ約10mほどで、幹回りが90cmほどあります。
また、利久型灯籠や自然石でできた手水鉢、イロハモミジなどが巧みに配置されており、遠近法を意識した構成になっている。そのため狭い庭でありながら、奥行きを楽しめます。


さらに奥へ歩いていくと、打って変わって和洋折衷のお部屋へ辿り着く。部屋の入口前には、井戸がありました。
室内へ入ると、先ほどの和室とは打って変わり、モダンな雰囲気が実に良いですね。それに「一文字三星」や「揚羽蝶紋」など様々な家紋を掲げているのが面白い。
揚羽蝶紋といえば、平清盛や織田信長などの家紋として有名ですが、ここは岡山県。備前岡山藩池田氏の定紋として掲げているのだろうな。

2階に上がると、梁の小屋組となっており、間近に自然の曲がりそのままを活かした太い梁を見学できます。これには思わず「うぉ~」と声が漏れました。
それに大抵は、外側からしか見物する機会がない虫籠窓を、内側から見物できるのも新鮮ですよ。

矢掛ビジターセンター問屋の見学を終えると、旧山陽道を歩きながら矢掛宿の町並みを観光します。平日でしたが、それなりの観光客が町歩きを楽しんでいましたね。
町中にはカフェや食事処が軒を並べているので、食べ歩きも楽しそう。
それに毎年11月の第2日曜日には、「矢掛の宿場町まつり」が開催されており、殿様や姫君、奉行、腰元たちが町をねり歩く約80名ほどの大名行列が見られます。

町並み散策を楽しんでいると、ついに見つけたのが本陣(旧矢掛本陣石井家住宅)です。日本建築の粋を凝らした赴きある建物ですよ。
本陣は、参勤交代の大名一行が宿泊や休憩した施設。大河ドラマで話題となった天璋院篤姫(てんしょういん あつひめ)も滞在した「上段の間」や、本陣を利用した大名の宿札がたくさん残っているぞ。また、座敷から眺める日本庭園も見逃せません。
そもそも石井家は、酒造業で栄えた豪商として、当時は町の代表的な存在でした。そのため、酒蔵・絞り場なども残っているので、見どころが多いですね。
矢掛宿と旧矢掛本陣石井家住宅については、下記関連記事でくわしく紹介します。
白梅と五重塔が映える風景

さて、本日行きたかった矢掛宿の観光も終えたことですし、帰路に付きますよ。
矢掛宿を後にすると、山陽ふるさと街道(国道486号)を東に向けて疾走。「我に追いつく自転車なし!」といったセリフを吐きながら、前へ前へと突き進む。
そうこうしている内に高梁川が見えてきました。歩行者・自転車専用の橋を渡り、川辺東交差点を右折してそのまま真っ直ぐ進むと、JR清音駅へ到着。


清音駅はJRだけでなく、井原鉄道も乗り入れしています。
今朝がたこの駅から井原鉄道に乗って井原駅に向かったんだよな~。数時間ぶりの再会となりましたが、私にとっては感慨深いです。
というのは、井原鉄道へ初めて乗ったのだから、そう感じるのも無理はないかな。今まで乗る機会がありませんでしたが、これを機会に井原方面へ向かう際には利用していきたいですね。
清音駅から少し北上して清音真金線(県道270号)へ合流。そのまま道なりに東方向へ進みます。

踏切前でたくさんの菜の花が咲いているのを見つけてニッコリ。春は色々なところで綺麗な花を見かける機会が多くなるので、外出するだけでも楽しくなる。
気温も温かだし、自転車で出かけるのに本当に良い季節です。

しばらくすると仏壇・仏具店の前を通りました。そこで見かけた石像にビックリ。これはどう見てもモビルスーツだろう?
モビルスーツの隣には、なぜか小鹿の石像が並んでいるぞ。その様子がシュール過ぎて、思わず1枚撮ってしまいました。(笑)

清音真金線の途中から吉備路自転車道へ入る。するとペースをダウンしてゆっくり走ります。
このまま道なりに進めば、備中国分寺の五重塔が見えてくる。吉備路のシンボルとして、また岡山県唯一の五重塔として有名な存在だ。
それに周囲の景観がすこぶる良いので、特に用がなくても近くを通ることがあれば、つい立ち寄ってしまいます。

目の前に見える五重塔を眺めながら、ゆっくり進むと備中国分寺へ到着。
当初の予定では、備中国分寺へ訪れる予定はなかったのですが、これも何かの縁。せっかくなので、本堂へ向かいお参りした次第です。
そして、先ほど五重塔を見かけた時に気になった場所へ歩いていくと・・・

ジャジャジャジャーン!うん、やっぱり白梅のバッグにそびえ立つ五重塔が素晴らしい。
いや~これは本当に絵になりますね。私と同じように思った人も多いようで、多くの参拝者が白梅と五重塔へ向けてカメラ撮影を勤しんでいました。
備中国分寺周辺は、サクラやレンゲ、ヒマワリ、コスモスなど花の宝庫です。個人的には、レンゲのイメージが強いかな。そんな中、梅と遭遇するのは何気に初めてですよ。


この嬉しいサプライズに思わずご満悦。今年は寒波の影響で、梅の開花が平年より遅い所が多いと聞いていたので、たまたまベストなタイミングにかち合ったみたい。
これもきっと神様や仏様のお導きなのでしょう。
満足いくまで梅と五重塔が織りなす景色を楽しむと、その後は帰路へついた次第です。こうして本日の旅は終わりを告げました。
まとめ

本日は、旅の始めは曇り空でしたが、次第に青空が広がり、陽気の中気持ちのよい自転車旅ができました。
久しぶりに矢掛宿へ訪れましたが、何度来ても白壁で統一されたレトロな町並みには、感嘆してしまいます。
それに、江戸時代から近代に建てられた建築物が混在しているのですが、不思議と一つにまとまっているのが実に良いですね。
今後も全国を旅しながら古い町並みへ足を運ぶつもりなので、どのような発見や出会いがあるのか楽しみ。
さて、次回は「しまなみ海道」と「ゆめしま海道」を旅する予定ですよ。過去に何度もサイクリングしていますが、何度でも訪れたくなる魅力にあふれた海道ですね。