
サイクリストの聖地として知られる「しまなみ海道」。
年間で、国内外から30万人以上がサイクリングへ訪れる人気スポットになっています。
このしまなみ海道を構成する島の一つには、瀬戸内海のほぼ中央に位置する生口島があり、島内には「島ごと美術館」と呼ばれる数多くのアート作品が、野外展示されているのを知っていますか。
文字通り、島全体が巨大な美術館になっているなんて、世界中を見渡しても珍しいでしょう。点在するアート作品は、全部で17点。(2025年4月時点)
海の中や浜辺、芝生広場など生口島の自然に溶け込んでおり、その調和のとれた景観美にも注目して下さいね。
本記事では、生口島を自転車で旅しながら「島ごと美術館」の作品群を紹介します。
島ごと美術館とは

島ごと美術館は、広島県尾道市の生口島に点在する野外アート作品の総称です。
アーティストの皆さんが、島内の風景や音などからインスピレーションを得て作品を作るという、オリジナリティが高いものであり、文化性が高く評価されています。
生口島の中心である瀬戸田町では、1985年以降に「ベル・カントホール」や「瀬戸田サンセットビーチ」など集客型施設の整備を推進し、1989年には「海と島の博覧会」の開場の一つに選ばれたことから、アートプロジェクト「瀬戸田ビエンナーレ」が始まりました。
このプロジェクトにより、設置された17作品が今の「島ごと美術館」です。
尚、ビエンナーレとは、2年ごとに開催される美術館という意味なんだそうな。今では島ごと美術館として、いつでも無料でアート作品を楽しめます。
【周辺の見どころ】
生口島周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
自転車で生口島を回るコースとアート作品一覧

生口島の外周は、ほぼ海沿いの平坦なサイクリングコースが約30kmほど続きます。
自転車でゆっくり走ったとしても、2~3時間あれば一周できるほどですね。
しまなみ海道を自転車で巡るのであれば、生口島へ入るコースは、因島から生口橋を渡るか、大三島から多々羅大橋を渡って入ることになる。
どちらからでも構いませんが、できれば海側に近くなる時計回りで島内を回りたいものです。
そこで、生口橋を起点にした場合に効率的に見て回れる順番で、17点のアート作品を以下に紹介します。
- 潮池(青木野枝)
- ベルベデールせとだ(川上喜三郎)
- CATS DANCE(滑川公一)
- 空/海(海老塚耕一)
- 空へ(眞板雅文)
- 千里眼”のぞいてみよう、瀬戸田から世界が見える。”(松永真)
- 凪のとき 赤いかたち/傾(植松奎二)
- ねそべり石(山口牧生)
- うつろひ(宮脇愛子)
- 波の翼(新宮普)
- 一羽の鳥の為に(田中信太郎)
- 海からの贈物(山本正道)
- 風の中で(西野康造)
- 飛石(福岡道)
- 球を包む幕舎(保田春彦)・・・この作品は隣接する高根島にあり
- 地上と地下の間で(崔在銀)
- 地殻(岡本敦生)
これらの中で「飛石」は、瀬戸田小学校の中庭に設置しているので、見学が難しいと思います。絶対に見たいのであれば、事前に学校側と交渉して下さいね。
また、「球を包む幕舎」は生口島ではなく、高根大橋を渡った先にある高根島の東側に配置されているので悪しからず。
これらのアート作品は、1日で全てを見て回っても良いし、数日掛けても良し。自分のペースで巡りましょう。
海・神社・御神木・アート作品が織りなす景色

生口橋から南側の海岸線(国道317号)を約6kmほど進み、国道から海側へ細い道に入ると「グランドーム瀬戸内しまなみ」というグランピング施設があります。
この施設から東側へ少し歩くと龍明神が見えてくる。そして、鳥居の隣には鉄でできたひし形が集まったオブジェに目が留まるだろう。
そのオブジェは、青木野枝さんのアート作品「塩池」ですね。その作品を見て、個人的には鉄の檻を思い浮かびました。


鳥居の奥に目を向けると、龍明神の社が見える。また、その奥には古墳のような盛り土があり、そこには密林のような木々が一つにまとまっているのが印象的です。
それが、より神秘的な雰囲気を醸し出しています。

また、海岸線の景色が素晴らしく、思わず愛車と1枚撮ってしまうほどだ。さすがはグランピング施設がある場所ですね。
海・神社・御神木・アート作品が一同にそろうこの場所で、休憩しながら風景を楽しんでみてはいかがですか。
映えスポットで知られるレモン色の巨大な展示品

龍明神から西へ約700mほど進んだ旧南小学校の跡地近くには、入り江に浮かぶレモン色の巨大な展示品が見えます。
これは彫刻家・川上喜三郎さんの作品「ベルベデールせとだ」ですね。何でもそばにある壁状の防波堤を観覧席とみなし、野外劇場の舞台をイメージして造ったそうな。
横から観察すると、円は二重になっており、干潮時にはスロープを登って円の中央部まで歩けるのが分かるだろう。


チャンスがあれば、自転車と一緒に円の中央に立ち、自撮りを楽しんで下さいね。実は、サイクリストの間では、SNS映えスポットとして知られているほど有名な場所ですよ。
私も何度か訪れたことがありますが、残念ながらいつも階段は海に沈んでおり、作品に登れたことがありません。いつか、きっと登ってやる!!
高台で踊る愉快な猫たちが面白い

島ごと美術館のアート作品は、大抵は海岸沿いか市街地にあるのですが、唯一高台に設置されているのが躍る猫たちのオブジェです。
麓から勾配が10%前後の劇坂をヒルクライムして、「シトラスパーク瀬戸田」へ到着すると、芝生広場にそのオブジェが目に入ります。
それは滑川公一さんの作品「CATS DANCE」ですよ。滑川さんは、猫をテーマにした数多くの作品を手掛けてきた画家・漫画家なんだとか。その初の彫刻作品であり、ユーモラスな姿は見ているだけで楽しくなってくる♪
輪になった猫たちの中央には、八朔の木が植えられているので、きっと成長を見守っているのでしょう。

ちなみにシトラスパーク瀬戸田は、グランピング施設を中心とした公園です。
春になると約800本の桜が咲き誇り、目の前に広がる瀬戸内海としまなみ海道の島々、そして桜のコラボが素晴らしい。激坂を上っていた疲れなんて吹き飛びますね。
ちなみに、シトラスパーク瀬戸田のスタッフに聞いたのですが、「足を着かずに劇坂を上りきり、シトラスパーク瀬戸田へ辿り着いたら勇者と呼ばれる」という。
サイクリストの皆さん、腕(この場合は脚か)に自信がある方は、ぜひチャレンジしてみよう。
海を見つめる展示品、初見では見つけにくいカモ?

生口島の南側にある最後のアート作品が、海老塚耕一さんが手がけた「空/海」です。
国道317号線から少し離れた場所にありますが、いざ訪れてみても初見では、その存在が分からないかも知れません。
というのは、桟橋とおぼしきスロープの上に錆びた鉄板が置かれているだけですよ。
これだけだと普通は、スルーしてしまうだろうな。しかし、れっきとしたがアート作品なのでお見逃しなく。


このアート作品は、ちょうど空と海の間にあり、まさに作品名通り。ジッと観察していると、波の揺らぎを感じられます。
それに正面には伯方島が見えており、その両脇には大三島や岩城島などが見て取れる。箱庭的な瀬戸内海の多島美を楽しめるスポットですね。
また、この場所から国道317号線へ戻り、少し西へ向かえば優美な多々羅大橋が目の前に・・・
思わず愛車と一緒に写真を撮りたい衝動に駆られると思います。
カラフルなアート作品が集まる瀬戸田サンセットビーチ

さて、よいよ生口島の西側へ向かうと、夏の海水浴場としても有名な「瀬戸田サンセットビーチ」へ辿り着く。
このビーチには3つのアート作品があり、それぞれが結構離れた場所にあるので、ビーチ内を隈なく歩いて下さいね。
まずは、駐車場正面にあるレストランとズラリと並んだレンタサイクルの間にある通路を抜けると、目の前には、眞板雅文さんが手がけたアート作品「空へ」が現れます。
ビーチによく似合うトロピカルな雰囲気が実に良し。それに青空の下、鮮やかな黄色が目を引くぞ。この作品を見ていると、本当に空へと舞い上がりそうな予感がしてなりません。

こちらは、芸術家・植松奎二さんのアート作品「凪のとき 赤いかたち」です。絶妙なバランスで立つ赤い円錐体と白い石の組み合わせが夕暮れ時に良く映えます。
ちなみに、周囲の椰子の木と重ねた角度で見てみると、思わず「ニンジンだ!」と言ってしまったのは内緒ですよ。

ビーチの南端には、巨大なメガネのようなアート作品があります。かなり大きな作品なので、遠くからでも容易に発見できるのはありたがい。
これは、グラフィックデザイナー・松永真さんの作品「千里眼”のぞいてみよう、瀬戸田から世界が見える。”」です。
メガネ枠を通して、高い場所から遠くにある未知の世界を覗いているのだろうな。また、両脇には黄色い小型のメガネ枠もあるぞ。メガネ枠を通して、ぜひ世界を覗いて楽しんで下さいね。

あっ、そうそう島ごと美術館の作品ではありませんが、浜辺前のベンチには、ビールの大ジョッキを空けている豪快なおじさんがいるぞ。
思わず1枚撮ってしまいました。
西海岸に集まる哀愁を誘うアート作品たち

瀬戸田サンセットビーチの建物から生口島循環線(県道81号)を北上していると、ビーチにポツンと佇む明らかに人が手を加えた大きな石が見えてきます。
この石は、山口牧生さんの作品「ねそべり石」ですね。見るからにベッドとして使うには、堅くて痛そうかな。
夕景をバックにしたねそべり石は、その背中に哀愁を感じてしまう。奥の方に見える堤防へ目を向けると、何やら棒のようなものが並んでいるではないですか。


実はこれ、宮脇愛子さんが手がけた「うつろひ」という作品です。この作品は、同作者によるシリーズものなんだとか。全国各地にこれと似たような作品を残しているというのだから、旅を続けていれば出会うかも知れません。
夕景に佇むこの作品を眺めていると、時のうつろいを感じてしまいました。


ねそべり石がある場所から少し北上すると、海中にゆらゆらと動くオブジェを発見。
これは、新宮普さんのアート作品「波の翼」です。風が吹くと帆が動いて、形が次々と変化するのが面白い。特に夕暮れ時では、その変化が何かを訴えかけているような気がするぞ。
まるで「まだ見ぬ知らない世界へ飛んでいきたい!」と思ってしまうのは私だけでしょうか。
これらの作品は、いずれも夕景の中で見ると、ノスタルジーを感じてやまないですね。
瀬戸田町観光案内所の周辺にはアート作品がいっぱい

南国リゾートのようにヤシの木が並ぶ通りを北上していると、瀬戸田の市街地へ入ります。
まずは瀬戸田町観光案内所へ訪れてみよう。案内所前には、島の特産物であるレモンやミカンの巨大オブジェが設置されているので、目を引くだろう。
このオブジェは、島ごと美術館の作品群と関係ありませんが、SNS映えスポットとして人気が高いですね。

観光案内所の周辺には、3つのアート作品が集まっているので、順次紹介します。まず始めに紹介するのは、田中信太郎さんのアート作品「一羽の鳥の為に」です。
本当に一羽の鳥のためだけに、作ったのかと思うような外観だ。小鳥がとまることを期待して、しばらく眺めていましたが、残念ながら現れず・・・
もしそのような光景を目撃できたなら、迷わずシャッターを切って下さいね。

また、敷地内には楽器・サックスをモチーフしたアート作品「風の中で」もあります。
広場の中央にドーンと配置された巨大なサックスは、インパクトが抜群だ。サックスの外観を良くみると、本物と比べて明らかに通気性が優れている。そのためか、ステンレス製にも関わらず、爽やかさを感じてやみません。
できれば「軽快なBGMを奏でて欲しい」と願ってしまうのは、わがままですかね。

さらに道路を挟んで向こう側には、山本正道さんのアート作品「海からの贈物」が設置されています。
作品名からして、どのような贈物なのだろうか想像力をかきたてられるだろうな。実際に作品を見る前に、1度自分で予想してみよう。そして、作品を見ながら答え合わせをするのも楽しいと思います。
難易度高め、小学校の中庭にある野外展示品
瀬戸田町観光案内所の隣には、瀬戸田小学校があります。
先ほども触れましたが、この小学校の中庭には、福岡道雄さんが手掛けた「飛石」というアート作品がありますが、この作品を見るのは敷居が高いですね。
日曜・祝日は職員が誰もいないと思うので、見学はできないだろうし、平日は授業時間などのタイミングによっては、必ずしも見学できないだろう。
そもそも現役の小学校へ突入するのは、私にはハードルが高すぎる。(そう思う人は多いのでは。)
どうしても見学したい方は、事前に小学校の職員にアポを取り指示に従いましょう。
お隣の高根島にもアート作品あり
島ごと美術館のアート作品は、生口島だけでなく、お隣の高根島にもあります。
高根大橋を渡り高根島へ上陸したら東海岸を北上して下さいね。すると、保田春彦さんの作品「球を包む幕舎」があるという。
残念ながら私は高根島へ行く機会がなく、未だこの作品を見ていません。どこかで時間を作って訪れたいと思います。
調べてみると、巨大な球を四角いテントで囲っているような作品なんだとか。なんだか面白そうですね。
芝生広場にポツンと建つ謎のBOX

瀬戸田町観光案内所を後にして、生口島循環線(県道81号)を東へ駆け抜けていると、サイクリスト御用達ともいえる人気店「しまなみドルチェ」が見えてきます。
ここでジェラートを食べながら休憩しているサイクリストは良く見かけるぞ。(私もそうですね。)
このドルチェのすぐ近くから内陸部へ向かうと「尾道市瀬戸田B&G海洋センター」があり、その敷地内には、崔在銀さんのアート作品「地上と地下の間で」があります。
芝生広場にポツンと建つ透明なBOXに、一体何があるのか興味がわくだろうな。なので、種明かしはしないでおきましょう。
作品の内側を覗き見て、地下がどうなっているのか、ご自分の目でぜひ確かめて下さいね。
生口橋の近くにある柱を見よ

最後に紹介するのは、生口橋から約1.5kmほど北側にある彫刻家・岡本敦生さんのアート作品「地殻」です。
遠くには生口橋が見えているので、一緒に撮影すると映えますね。
この作品では、よりかかった白い大きな石が、絶妙なバランスで立っているのではないかと思わせる。それにひょっとしたら、本物の地殻かも。ジッと眺めていると、そのような感想を抱くと思います。
島ごと美術館の基本情報
住所 | 広島県尾道市瀬戸田町一帯 |
電話番号 | 0845-27-2210(尾道市瀬戸田支所しまおこし課) |
まとめ

生口島に点在している17点のアート作品は、一目で分かる場所にあったり、反対にさりげなく設置されていたりします。
そんなアート作品を追い求めていると、まるで宝探しをしている気分になるだろう。ワクワクしながら、島内を駆け巡るのは楽しいですね。
移動手段は、車やバイク、自転車など自分に合うものを選ぶこと。もちろん徒歩でもOKですよ。
しまなみ海道を巡る際には、生口島で普段とは違ったアート巡りの旅を満喫してみてはいかがですか。