
兵庫県の福崎町に位置する辻川山周辺は、「遠野物語」や「妖怪談義」などで知られる民俗学者・柳田國男(やなぎた くにお)先生の出身地です。
彼の著書には、様々な妖怪が登場しますが、この福崎町では、至るどころでそんな妖怪たちに出会えるというのだから面白い。
特に辻川山公園では、河童や天狗など誰もが知っている妖怪たちが園内に潜んでおり、ユニークな演出で訪れる人たちを楽しませてくれます。
また、妖怪だけでなく、柳田先生の生家や神崎郡歴史民俗資料館、柳田國男・松岡家記念館など見どころも多い。そして、ちょっとしたハイキングを楽しめる「学問成就の道」を歩いて、願いを叶えてみよう。
本記事では、福崎町の珍スポット「辻川山公園」の魅力を紹介します。
福崎町と辻川山公園

兵庫県姫路市の北部にて、播磨平野のほぼ中央に位置する福崎町は、四方を山々に囲まれた自然が魅力的な町です。
かつては、生野街道や北条街道が交わる要衝として大いに栄え、少しばかりですがノスタルジックな町並みが今も残っています。
柳田國男先生が生まれ育った地として、福崎町内にある辻川山公園を中心に妖怪をモチーフとした町おこしが盛んですね。過去には、妖怪の造形作品を募集する「全国妖怪造形コンテスト」が開催されました。その作品は、辻川山公園で見物できます。
また、福崎町では妖怪にちなんだベンチが制作されており、年々増加中。2024年8月時点では22基に達しているぞ。散策用に便利なルートマップ(福崎駅前の観光交流センターで無料で入手可能)が作られているので、マップを片手に町歩きを楽しみましょう。
【周辺の見どころ】
辻川山公園周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
池の中から現れる「河童(ガジロウ)」などの演出が面白い

辻川山公園の中へ入ると、大きなため池があるのに気が付きます。見た目はどこにでもあるような普通の池ですが、この池にはユニークな仕掛けがあるので、スルーしないで下さいね。
実は、決まった時間になると、池の底から河次郎(ガジロウ)が現れるという。突如水面にゴボゴボと泡が立つのが目印だ。そして、ガジロウがバシャーンと登場するのだけど、その姿に思わず後ずさりしてしまうかも。それほど迫力満点ですね。
ガジロウは、9:00~17:00(毎時0分・15分・30分・45分)の間に現れるので、ジッと橋の上から池をのぞいて待っていよう。


初見では、ガジロウのリアルな姿に驚きますが、何度も見ているうちに愛着がわいてくるのが不思議です。まさに「キモ可愛い!」ですよ。
存在だけで面白いガジロウですが、もう一つ秘密が隠されています。ガジロウは、秘密の地下トンネルを通って辻川山公園と福崎駅を行き来しているという。

その証拠に、駅前の交流広場には水の入った円柱があるのですが、時間になると、その円柱内にガジロウの全身が現れるのだから面白いですね。
真正面から見たガジロウの姿から、身長が約160cmの人間サイズということが分かりました。
ちなみに現れる時間帯は、7:07~20:07(毎時7分・22分・37分・52分)なので、辻川山公園より登場回数は多い。ぜひ両方に足を運び、ガジロウに会いにいこう。

辻川山公園に話を戻すと、池の畔には、お皿が乾いてしまい固まって動けない兄の河太郎(ガタロウ)がいます。この河童の兄弟は、柳田先生の著書に登場する市川の駒ヶ岩の河童をモチーフにしているそうですよ。
手にしているのは、間違いなく尻子玉(しりこだま)だろうな。尻子玉とは、河童が人のお尻から抜くと言われている架空の臓器のこと。話に聞いことがある人も多いだろう。
ガタロウとガジロウの河童の兄弟は、今も訪れる人たちを園内で静かに待っています。

ちなみに、近くには顔出しパネルがあり、顔をはめると尻子玉を抜かれるかも。
尻子玉を抜かれると、腑抜けのようになってしまうらしいですが、本当のところは分かりません。

また、池の中にはガジロウ以外にも人面魚がいるみたい。お腹にハートマークがあるのが特徴ですね。
実際に探してみたのですが、残念ながら見つからず。もし見つけられたら良いことがあるのかも。

こちらは、辻川山公園で見つけた絵馬です。どうですか、可愛いでしょ。
一目で親しみやすさを与えるデザインが秀逸かな。なので、個人的に気に入りました。
【公園の紹介(その1)】
兵庫県で訪れた魅力的な公園を、下記記事で紹介します。
妖怪小屋から空を舞って現れる「逆さ天狗」にビックリ

ガジロウたちに気を取られていると、どこからとなくスピーカーから音が聞こえてきます。
音が聞こえる方向へ目を向けると、地上3mの位置につくられた小さな小屋の扉が「ギギギギッ!!」と開き、宙づりの天狗が現れるではないですか。
長い鼻に大きな口、筋骨隆々とした赤く大きな体には、立派な翼が生えている。何やらブツクサと独り言を放つのも面白い。
ガジロウと同様にインパクト抜群な登場の仕方にビックリしますね。それに逆さで登場する天狗というのは珍しい。より印象に残るというものです。

天狗の手を良く見ていると、何かを握っているぞ。実はこれ、福崎町の特産品「もち麦どら焼き」なんだとか。逆さ天狗の大好物だそうですよ。
天狗が現れる時間は、9:05~17:05(毎時5分・20分・35分・50分)とガジロウの登場時間に対して5分ズレているので、ガジロウの次に逆さ天狗をぜひ見物してみよう。

余談ですが、福崎町の町中には、天狗のサラリーマンがいます。ベンチに座ってパソコンを開き仕事をしている姿には、多忙なサラリーマンの姿を見て取れる。
あまりにも逆さ天狗との境遇の違いに、天狗の世界も世知辛いものがあるのだなと思いました。
【公園の紹介(その2)】
旅先で訪れた魅力的な公園を、下記記事で紹介します。
園内に潜むユニークな妖怪たち

園内には、ガジロウや逆さ天狗以外にも多くの妖怪が姿を現しています。たとえば、こちらの「招き鵺(ぬえ)」のような大型像があちこちで見かけるぞ。
鵺といえば、平家物語などに登場する色々な動物をごちゃ混ぜにした生き物のこと。一般的には、頭が猿で胴体が狸、虎の手足を持ち尾は蛇というキメラなんだとか。こう聞くとオドオドしく感じますが、こちらの像は一見猫のように見えるユーモラスなお姿ですね。
そのためか、それほど恐ろしく感じられない。(人によります。)細部まで丁寧にデザインされているので、どのような動物が混じっているのか探してみよう。

こちらの作品は「森に吹く風」です。山の神をテーマにしています。よく見てみると、乳飲み子をたくさん抱えているではないですか。
でも一匹だけ、違う妖怪が混じっているように見えるのだけど、山の神のお母さんからしてみたら、誰の子に対しても平等なんだろうな~。

おっ、何だかた賑やかそうな妖怪の登場だ。こちらは「輪廻の森」という作品。深夜の山中で神楽の囃子(はやし)を奏でている雰囲気が伝わってくる。
どんちゃん騒ぎする小さなカエルたちが実に楽しそうだ。妖怪のあやしいイメージとは違っている、明るいのりがいい感じですね。

思わず「親分!!」と呼びたくなるような天狗の長もいるぞ。鋭く光る碧い目で見つめられると萎縮してしまう。これが覇王色の覇気というものかも。
これらのブロンズ像は、福崎町が主催する「全国妖怪造形コンテスト」の最優秀作品を基にして町が製作しています。くまなく園内を歩きながら、ぜひ潜んでいる妖怪たちを見つけ出して下さいね。
民俗学の父・柳田國男の生家など関連施設を見学

園内には、柳田先生に関連する施設が三つあります。その一つが柳田先生の生家ですね。もともとは、街道沿いにありましたが、1974年に100mほど北に位置する辻川山公園へ移築されました。
先生自身の人生を回顧した「故郷七十年」という著書にて、「私の家は日本一小さい家だ」とうたっていますが、それほど小さな家とは思えない人が多いと思います。
柳田先生の本姓は「松岡」といって、儒学者・松岡操の六男だったそうな。松岡家は子だくさんで八人兄弟だったという。そう考えると、大家族が住むには狭すぎるのも納得です。それに、民俗学への志の源となった家だと知ると感慨深く感じますね。

生家の見学を終えたら「柳田國男・松岡家記念館」と福崎町の歴史を学べる「神崎郡歴史民俗資料館」へ足を運んでみよう。
柳田國男・松岡家記念館では、医学・国学・言語学・美術などの分野で活躍した松岡兄弟の功績を知ることができる。

最期に紹介するのが神崎郡歴史民俗資料館です。こちらでは、福崎町の歴史や当地方で使われていた生活用具・農具などの民俗資料が展示されています。
建物の外観は、ギリシャ様式のバルコニーが特徴的。1886年(明治19年)に神東・神西郡(神崎郡)の役所として建てられたものを移築・復元しました。
兵庫県指定重要有形文化財に指定されており、内外に意匠を凝らした彫刻もあるのでお見逃しなく。これらの施設は全て無料で見学できるのは、ありがたい話ですね。
- 開館時間:9:00~16:30
- 入館料:無料
- 休館日
- 月曜日(祝日の場合は開館)
- 祝日の翌日(土日の場合は開館)
- 年末年始(12/28~1/4)
柳田國男の生家、柳田國男・松岡家記念館、神崎郡歴史民俗資料館
学問成就の道を歩き願いを叶えよう

園内にある鈴の森神社から辻川山の山頂を経由して、北野天満宮を結ぶ「学問成就の道」を歩いてみよう。
合格祈願や学問成就にこの道を歩いて、二つの神社へお詣りすれば、願いが叶うといわれています。一歩一歩願いを込めて歩くと、願いが叶いやすいかも。

鈴の森神社は、柳田先生が幼少の頃の遊び場だったそうな。松岡家の氏神でもあり、英才な兄弟たちを輩出した事実からご利益を期待できる。
この神社脇から階段が延びていて、ちょっとしたハイキングを楽しめます。

こちらのマップを見て分かるように、歩く距離は短く約500mくらい。15~20分もあれば走破できるだろう。
道中には、松岡家兄弟の石像が配されているぞ。柳田國男・松岡家記念館で兄弟たちの功績を学んでいると、石像を見る目も変わるはずだ。

私はあとから知ったのですが、成人した五兄弟の石像の台座には、桜マークが刻まれているので、これを紙をあてて鉛筆でこすると文字が現れるそうですよ。
5つそろえば、ある言葉が浮かび上がるそうなので、興味がある方はチャレンジして下さいね。

山頂へ到着すると、福崎の町並みを一望できるビュースポットになっている。
昔から今に至るまで交通の要所として栄えている土地柄なんだとか。今は東西に走る中国自動車道や南北の播但連絡自動車道が交わっていて、播磨工業地帯の北玄関として発展を続けています。
時代が変わり、柳田先生が幼少の頃に眺めたであろう町並みとは違っていても、遠くに見える山並みや川の流れというのは、当時と変わっていないだろうな。

菅原道真公を奉る北野天満神社へ到着してお詣りすれば、学問成就の道をコンプリート、お疲れさまでした。
その後は、来た道を引き返そう。ちなみに、山を下ると北野公民館の近くへ出ます。麓から辻川山公園へ戻ったとしても、それほど距離は変わらないですね。
初見ならば、引き返した方が道に迷う心配がないため無難です。
辻川山公園の基本情報とアクセス
住所 | 兵庫県神崎郡福崎町西田原1038-12 |
電話番号 | 0790-21-9056(福崎町観光協会) |
【アクセス】
- JR福崎駅から徒歩約25分
- JR福崎駅からタクシーで約10分
- 播但連絡有料道路福崎南ランプ、福崎北ランプから車で約5分
辻川山公園の駐車場
辻川山公園には、無料駐車場があります。
- 第一駐車場:普通車10台、バス2台、多目的用スペース1台
- 第二駐車場:普通車50台、多目的用スペース2台
満車の場合は、福崎町辻川観光交流センターの無料駐車場を利用して下さいね。
まとめ

福崎町の辻川山周辺では、様々な妖怪たちに出会えます。妖怪をモチーフとした彫刻を町中で見られるのは面白いですね。
特に辻川山公園では、人気キャラクターのガジロウ(河童)が、池の中から登場するシーンにビックリするぞ。また、妖怪小屋から空を舞って颯爽と現れる「逆さ天狗」も素晴らしい。きっと草葉の陰で、柳田國男先生も驚きながらも笑ってくれるだろうな。
福崎町を観光する際には、レンタサイクルを借りて、辻川山公園や福崎駅、福崎町辻川観光交流センターなどにいる、様々な妖怪たちに会いに行ってみてはいかがですか。