世間一般では、そろばんを習えば「算数や数字に強くなる」「頭がよくなる」といったイメージがあります。
科学技術の進歩に伴い、安価な電卓が大量に出回っている現代では、ビジネスシーンで使われなくなって久しいですね。しかし、その独特な魅力は色あせることはありません。
そろばんで有名な兵庫県小野市は、播州そろばんの名産地。そして、そこには「そろばん博物館」があります。
館内には、スタンダードから変り種まで面白いそろばんが勢ぞろい。また、そろばんで作られた姫路城や五重塔など精緻な芸術品は見応えが十分です。
本記事では、今もなお脈々と受け継がれる伝統工芸品・そろばんを学べる「そろばん博物館」について紹介します。
そろばん博物館とは
そろばん博物館は、小野市伝統産業会館内に設けられており、日本だけでなく世界のそろばんや小野市の特産品である家庭用刃物などが展示されています。
私たちがよく知るそろばんを始め、素材や形など珍しいものもたくさん展示されていますので、思わず「なんだこれは?」や「凄い!!」といった様々な感想を抱くだろう。
そもそも小野市伝統産業会館は、播州そろばんの振興や発展を図るために開館しました。
全国No.1のシェアを誇る播州そろばんは、1976年(昭和51年)に通産省の伝統的工芸品に指定され、今に至ります。
【周辺の見どころ】
そろばん博物館周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
これ本当にそろばん?スタンダードから変り種まで
私たち人類の歴史において、計算する作業というのは、とても労力のいる難しいことでした。だからこそ、簡単に計算する仕組みが世界各国で生まれていき、その行きついた先が「そらばん」の誕生につながります。
どの国が起源なのかは様々な諸説がありますが、ほぼ同時期に石やコインなど物を動かして数えるという発想があったそうで、洋の東西を問わず同じような結果になるのは面白いですね。
日本のそろばんのルーツを紐解くと、中国から伝来したものであり、室町時代末期に対明貿易によってもたらされました。
それでは、バラエティー豊かなそろばんを紹介します。
まずは、大正・昭和初期のそろばんを見てみよう。見た目からして、現代のそらばんとほとんど同じにみえる。
これぞそろばんのスタンダードといえるでしょうね。耐久性は分かりませんが、今でもバリバリの現役で活用できそうです。
日本に伝来したそろばんは、今に至るまでほぼ原形を変えていません。すでにその頃には、ほとんど手を加える必要性がないほどの完成系ができていたのでしょう。
それでは時代を紀元前まで巻き戻して、古代のそろばんをみていきます。こちらは「砂そらぼん」です。
紀元前3,000年前、メソポタミア地方で計算用具として使われていました。箱に砂を入れて、棒を使ってその砂に穴をあけ、その穴の数を計算するそうな。
また、石の大きさで位(小:一の位、大:十の位)を分けて計算に利用していたとのこと。なるほど、原始的ですが確かに視覚的に分かりやすい。
考え方自体はシンプルなので、現代でも十分活用できますね。
こちらは、古来から沖縄で使用されていた「藁算(わらざん)」というもの。明治時代中期まで使われていたという。どうやら藁に結び目を作り、数量などを表わすようだ。
う~む、慣れていなければ使うのには、少し手間がかかりそうかな。
おっ、これは「円形そろばん」か~。発想は面白いけど、使いこなすのが難しいと思う。やはり、スタンダードの横に長いスタイルがベストではないでしょうかね。
使いづらいというのであれば、「ロールそろばん」はどうだろうか。少なくとも私には、扱える自信がありません。いったい、どういう経緯で生まれたのか、私気になります。
そして、個人的に一番意味が分からなかったのが、こちらの「電卓付きそろばん」です。これはもう電卓だけでよくない?
製品化されたということは、需要があったのだろう。う~む、謎すぎる。
その他には、総アクリル樹脂のそらばんや視覚障害者用のそろばん、二進法に特化したそろばん、飾り金具などを使って見栄がよい置物用の御殿そろばんなどが展示されており、楽しく見学できました。
このような面白いそろばんの中でも私が最も気に入ったのは、こちらの「開運算盤」です。道具として使うより、神棚にお供えしておきたいですね。
播州そろばんでは、吟味した部品を使い、部品ごとに各作業が分業化されています。
玉削り職人・玉仕上げ職人・組立職人など多くの職人が関わり、その工程は100を越えるという。そのほとんどが手作りというのですから、どれだけ大変なのかは想像がつきますね。
匠の技により手間暇をかけたそろばんだからこそ、使いやすい道具としてだけでなく、工芸品として機能美を兼ね備えているのでしょう。
【博物館の紹介(その1)】
そろばん博物館のように楽しく見学できる博物館は、国内に無数にありますので、下記記事で紹介します。機会があれば、ぜひ訪ねてみてはいかがですか。
一見の価値あり、そろばんを活用した芸術品の数々
そろばん博物館では、そらばんを使いユニークな作品を展示しています。
館内へ入ると、色々なそろばんが目に入るのですが、その中でもインパクト抜群なのが、姫路城をモデルにした「播州そろばん城」でしょう。
なんと、そろばん玉を約5万個も使い作っているというのですから驚きです。
本物と違って木目調なのですが、これはこれで味があって素晴らしい。大きさは本物の約5百分の1だそうな。縦・横・高さはそれぞれ約1mあります。
天守閣に上には、シャチホコもそろばん玉を使って再現。芸が細かいですね。この芸術的なお城には、拍手喝采を贈りたい。
播州そろばん城の他にも芸術品と呼べるものは、色々あるので紹介します。
こちらは、そろばんを使って法隆寺五重塔を再現。法隆寺五重塔といえば、日本最古の塔だけでなく、世界でも最も古い木造建築として知られています。
姫路城と同じく世界遺産に挙げられているほどの超有名な建築物ですよ。
漆黒の色彩がいかにもリアルだ。それに所々には、黄金色のそろばん玉が混じっているのがいい感じ。
ん、これは神輿ですね。そろばん玉を約1万1千個使っているそうです。所々にカラフルなそろばん玉を使い、再現度が高い。
どの作品も作り上げるには、膨大な時間と根気が必要なのは一目見て分かるので、最後まで作り上げた姿勢に感動を覚えました。
最後に紹介するのは、そろばんのピラミッド。
単純にそろばんを積み上げただけなのですが、ここまで高いと見応えがある。枠材20種、珠材30種を使って完成させたこだわりの逸品です。
今後もどのような芸術品が登場するのか楽しみですね。
【博物館の紹介(その2)】
旅先で訪れた様々な博物館を、下記記事で紹介します。
巨大な「祈願そろばん」モニュメントにて合格祈願
小野市伝統産業会館のすぐ近くにある小野市役所東駐車場には、巨大なそろばんのモニュメントがあります。
このモニュメントの名前は「祈願そろばん」。巨大なそろばんに触れると、受験に合格するという風説をもとにして設置されました。
受験中の学生にとっては、ぜひそのパワーを授かりたいものですね。
また、良く見ると分かるのですが、そろばん玉の位置はその年を表している。このような演出は、何気に嬉しいぞ。
モニュメント前には、祈願する手順が説明しており、これが実に面白い。
簡単に説明すると、「願いましては」と唱えて、モニュメント前にある小さな黄金色のそろばんの五玉全てをあげた後で、願いを数字に込めてそろばん玉を弾く。ここがポイントです。
たとえば、合格を願うのであれば 「5・9(ごうかく)」と弾こう。
そして、そろばんの後ろにある大きなそろばん玉をさすればOK。どうですか、面白い参拝方法ですね。
ちなみに、願いを込める数字には、以下のようなものがあります。
- 宝くじ 「10・1000(とうせん)」
- 勝負「4・0・2(しょうぶ)」
- 商売繁盛 「4・0・8・1・8・4・0(しょうばいはんじょう)」
- 安産祈願 「1・1・0・3(いいお産)」
語呂合わせとなっているので、自分でも色々と考えてみて祈願しましょう。
【ユニークな参拝方法の神社仏閣】
神社仏閣の中には、とてもユニークな参拝方法があり、驚くことがありますね。そこで旅先で訪れたそんな神社仏閣を、下記記事で紹介します。
そらばんには様々なメリットがある
冒頭でも触れましたが、今ではそろばんが使われる機会が少なくなってきました。けれど、そろばんを習えば、多くのメリットがあることが分かっています。
計算力・集中力・注意力が身に付いたり、積極的に行動を起こすようになれる効果があるそうです。それに、指先を動かして使い続けるので、脳の活性化に役立ちそう。
熟練者ともなれば、頭の中でそろばんを弾けるようになり、計算機を使うより早く暗算できるという。ここまでくると、日常生活や仕事でも一生役立つスキルといえるでしょう。
また、そろばんの計算には、論理性が求められます。そろばんを学ぶことで、自然に論理的な物事の考え方が身に付くのもポイントが高い。ただし、理屈倒れにならないよう気を付けたいですね。
意外に思われるかも知れませんが、忍耐力も身につきます。というのは、そろばんは指で玉を弾きながら、頭の中をフル回転させなければならない訳ですから、慣れるまで結構大変。
私は子供の時にそろばんを少しかじりましたが、物凄く大変だったのを覚えています。
だからこそ、個人差はあるものの慣れるまでの過程において、忍耐力が身に付くともいえるのです。
そろばん博物館(小野市伝統産業会館)の基本情報とアクセス
住所 | 兵庫県小野市王子町806-1 |
電話番号 | 0794-62-3121(小野市伝統産業会館) |
営業時間 | 9:00~17:00(小野市伝統産業会館) そろばん博物館の最終受付は16:00まで |
休館日 | 年末年始(12/28~1/4) |
入館料 | 無料 |
【アクセス】
- 神戸電鉄小野駅から徒歩約15分
- JR小野町駅から徒歩約40分
- 山陽自動車道「三木小野IC」から車で約10分
- 中国自動車道「滝野社IC」から車で約15~20分
そろばん博物館(小野市伝統産業会館)の駐車場
小野市伝統産業会館前には、道路を挟んで向こう側に小野市役所東駐車場があります。こちらの駐車場を利用しましょう。
まとめ
そろばん博物館では、私たちがよく知るそろばんを始め、見たことのないような不思議なそろばんも展示しています。また、そろばんを使った芸術品の数々は一見の価値ありですね。
館内はそれほど広くないので、20~30分もあれば一通り見て回れるので、じっくり見学していこう。
昔は「読み・書き・そろばん」といわれていた通り、学びの基礎として私たちの身近にあったそろばんですが、現代では電子計算機などの発達により全く使っていない人も多いでしょう。
けれど、そろばんを使い続けていれば、いずれ頭の中でそろばんを弾けられるという。そうなる頃には、優れた暗算能力が身につきます。
今一度、そろばんに注目してみるのもいいのではないでしょうか。