
香川県高松市と坂出市にまたがる「五色台(ごしきだい)」。周囲を急峻な崖に囲まれた、標高200~400mの卓状台地です。
五色台の中腹には、瀬戸内海の歴史や文化を学べる「瀬戸内海歴史民俗資料館」が建っています。石積みの外壁が特徴的なフォトジェニックな建物は、香川県出身の建築家・山本忠司(やまもと ただし)氏が手掛けました。五色台の自然に見事に調和しています。
また、館内では木造船や船大工用具、農具、芸能など豊富な民俗資料にて、瀬戸内の暮らしに触れてみよう。さらに屋上展望台から風光明媚な瀬戸内海の景観を楽しんで下さいね。
本記事では、様々な魅力がたくさん詰まった「れきみん(愛称)」こと、瀬戸内歴史民俗資料館を紹介します。
目次
瀬戸内海歴史民俗資料館(愛称:れきみん)とはどんなところ

瀬戸内海歴史民俗資料館は、瀬戸内海国立公園内の五色台丘陵にあります。
主に瀬戸内11府県を対象に民俗資料の展示や収集などを行ない、瀬戸内地域の歴史や文化を紹介。約3万点にものぼる民俗資料を一般公開しており、その中でも約6千点が国の重要有形民俗文化財に指定されました。
館内では「海のくらしと祈り」「海の道・瀬戸内海」「船のルーツを考える」「塩飽の石工用具」といったテーマの常設展示室が8つあり、それぞれテーマに沿った資料を展示しています。
また、年間3回程度のテーマを設定して、収蔵資料を展示するフロアもあり。豊富な展示品をじっくりと見学していると、時間が経つのを忘れそう。なので、時間がない方は、興味のある分野を中心にして、見て回るのがおすすめです。
その他にも「瀬戸内ギャラリー」を開設しており、館主催や関係団体、個人との共催などにより、瀬戸内文化の発信をより高めています。
【周辺の見どころ】
瀬戸内海歴史民俗資料館周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
石積みの外壁と自然に調和した建築物

激坂が続く五色台スカイラインを上り、瀬戸内海歴史民俗資料館へ到着すると、まず始めに目にするのが重厚感がある建物です。特に美しい外壁の石積みが特徴的。思わず城郭かと思いました。
「公共建築百選」や「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」などに選ばれた建築物は、高い評価を得ていて、この建物を見るだけに訪れる人も多いといいます。
2024年12月には、国の重要文化財に選ばれました。聞くところによれば、1970年代の建造物が選出されたのは初めてだそうですよ。

あえて山を全て平らに整地しておらず、斜面に沿って建設しています。高低差約7mの地形に8m×8mを基準にした、大小様々な10の展示室が配置される珍しい構造ですね。
そして何よりも、五色台の自然景観と調和する地域の特性を活かしているのが素晴らしいと思いました。

また、自然のままの松や下草をそのまま残したままの中庭もいい感じ。計画当初は、人工的な屋外展示空間にする予定でした。それも悪くはありませんが、個人的に今のままの方が良いかな。
展示室は、この中庭を囲うように回廊上でつながっているので、展示室によっては一旦中庭へ出てから移動する必要があります。

多くの来館者が驚くのは、当館入口横にある大きな石積み外壁(第1展示室)だろう。実は、お城の石垣と違って、コンクリートの表面に手作業で石を貼りつけた壁なんだとか。パッと見た感じでは、とてもそうとは思えませんね。
使っている多くの石は、安山岩なんだそうな。この大量の安山岩は、基礎工事の掘り出し中に出てきたといいます。
せっかくなので石積み外壁に近寄り、間近でよく表面を見てみよう。石の形状や大きさがまちまちで、巧みに組み合わせていることが分かりました。

案内板によると、石積みの外壁は24m角の第1展示室と一番高い場所にある16m角の収蔵庫、12m角の機械室の3箇所しかないという。意外に少ないですね。残りは、白く塗られたコンクリートの外壁なんだとか。
しかし巧妙に配置されているためか、全体的に見るとバランスの良いデザインだと思います。

建物の外観だけでなく、内装にも注目。こちらの第1展示室の天井を見て下さい。どうですか、木造の枠が格子状になっていて、柔らかな光を注ぐ照明がいい感じでしょ。
設計を手掛けた山本氏は、香川県庁舎や瀬戸大橋記念館など多くの建設に携わり、香川県の現代建築文化の基礎を築いた人物。晩年には、直島「家」プロジェクトを監修しています。
様々な木造船が一堂に並ぶ圧巻の展示室

館内へ入り一番最初に向かうのは第1展示室です。この展示室へ一歩踏み入れると、ズラリと並ぶ木造船の多さに驚きます。木造船と一言でくくりますが、用途のよって種類は多いですね。
たとえば、江戸時代から続く伝統的な鯛の漁法に使われる「鯛網船(たいあみぶね)」や、旅客や荷物を運ぶ小型の「渡し船」、伝統的な祭礼や神事などで使われる「櫂伝馬船(かいでんません)」などがあります。
古来より海上交通や文化交流の大動脈であった瀬戸内海を、縦横無尽に駆け抜けた木造船は、生活になくてはならない存在です。

こちらは、渡し船です。このタイプの船を見たことがある人は、多いのではないだろうか。一部の地域では、今でも生活の足として活躍しています。
この渡し船は、しまなみ海道を構成する生口島の瀬戸田と高根島の間を移動する足として、昭和25年から30年頃まで活躍していました。
昭和45年に高根島橋の完成に伴い、その役割は終了。当時は無料で運行されていましたが、正月とお盆には運賃代わりに麦一生を渡していたそうです。
個人的には、桜シーズンに滋賀県の近江八幡市にて、風流な手漕ぎの和舟に乗りながら八幡堀めぐりをしたのが良い思い出ですね。(八幡堀めぐりについては、こちらの記事で紹介)

こちらは手繰網船(てぐりあみふね)です。全長8.3m、最大幅は1.78mもあります。
手繰網は、網の片方をイカリで固定して、もう片方を船で曳く底曳網の元祖なんだとか。この船は二人乗りの漁船で、カレイやメバルなどを獲っていました。

おっ、何ですかこの船は。小さくて可愛いですね。この船は「ダンベ」といって、一本釣りの餌(エビ・イイダコ・イカなど)を生かしておく船型の生簀(いけす)なんだそうな。
このような専用の船があるなんて、初めて知りました。




船以外にも鯛網漁に用いる道具や海士による潜水漁具、魚の標本なども展示しています。
個人的には、魚の習性を上手に利用した漁法が面白かったです。イカナゴなど団子状に集まる習性を利用した餌床すくい網を始め、オオダコ壺やイイダコ壺、ハゼ壺などがあるので、興味がある方はじっくりと見学して下さいね。

天井を見上げると、クジラの骨格標本を発見。どうやら、さぬき市志度沖で漂流していたミンククジラのようです。
このことから、かつて瀬戸内海で捕鯨が行われていたことが分かるだろう。


第2展示室では、木造船の製作現場が再現されています。
昔の船には詳細な設計図がなくて、板図と呼ばれる側面図を引くのが基本でした。主に杉板に10分の1の縮尺で引くそうです。船の種類によっては、30cmのものから3mを越えるものまであるみたい。
昔の船大工は、この絵を見ながら頭の中で図面を考えながら制作していたとのこと。その高い技術力には脱帽です。
博物館の紹介(その1)
旅先で訪れた博物館を、下記記事で紹介します。
瀬戸内地方の暮らしを学べる豊富な展示品の数々

瀬戸内海歴史民俗資料館では、各時代の地域でどのような暮らしをしていたのかを調査しています。
山仕事や農業、日常生活において、重い荷物を背中に背負って運ぶために用いた道具を「背負運搬具」といいますが、館内には長年収集してきたこの道具をまとめて一般公開しているので、ぜひ見学してみよう。
収集品は、福井県から鹿児島県まで西日本の1府22県を網羅しており、地域色や形態差があり。同じ用途でも、様々な特色が見て取れるのが面白いですね。
310点もの道具が、国の重要文化財に指定されています。

昔から私たちの暮らしに欠かせない風習の一つが「祭り」です。
祭りといえば神事ですが、それだけでなく準備から運営まで住民同士の交流を図り、地域コミュニティの絆を深める生活の一部ともいえます。
高松市の屋島大宮八幡神社の秋祭りにおいて、祭礼行列に使われていた船が展示されており、船上には普通は見られないものを発見。なんと、角の生えた獅子が置かれているではないですか。
この獅子は「イタレ獅子」といって、船にのせていなければ船が動かないという言い伝えがあるそうです。
ちなみに、この秋祭りでは「獅子の馬場づかい」という複数の獅子が一斉に舞う伝統行事があるという。私は実際に見たことがありませんが、想像するだけで迫力を感じるぞ。

このお船の奥にあるのが、坂出八幡神社や塩竃神社、菅原神社の祭礼に坂出横津地区から奉納する獅子舞の移動に使っていたダンジリです。
獅子台とも呼ばれており、躍動感のある龍の彫刻がお見事。個人的には、目力に圧倒されました。


また、屋外展示品にも注目しよう。駐車場前には、赤色と白色の小さな灯台があります。これらの灯台は、かつて高松港にあった「歴民の灯台」の灯ろう(灯台の頭の部分)を移設したものですね。
これらの灯台は、約30年の長きにわたり連絡船の出入りなど様々な船の安全を守ってきました。赤灯台は1994年、白灯台は1995年に役目を終え今に至ります。
手が触れられるほど近くで灯とうを見る機会なんて、そうそうないと思うので、この機会は貴重ではないでしょうか。
白灯台の灯ろう奥には、シートカバーを付けていますが、瀬戸内海で活躍した木造船も見て取れます。

こちらは金毘羅(こんぴら)灯籠ですね。金毘羅信仰で有名な土地柄のため、今もこんぴら街道沿いには、多くの金毘羅灯籠を見かける機会が多いです。
その信仰が盛んだったことを物語る証といえるでしょう。
こんぴらさんの紹介
金刀比羅宮(こんぴらさん)やこんぴら街道を、下記記事で紹介します。
見え方が変化する展示室をつなぐ階段

各展示室へ歩いて移動する際に階段を上るのですが、奥へ進むにつれ床の高さが段々と高くなっています。これは、高低差が約10mもある自然の地形を生かした建物だからですね。
そのおかげで、階段から見上げたり、見下ろしたりすることで、展示品の見え方が変化して楽しい。それに、幅の広いステップでは展示ケースを置けるので、展示空間として活用できるとのこと。
上るのが辛い階段でも、途中に展示品があると興味を惹かれ足をとめて見学する人は多いと思います。そのためか、気付かない内に階段を上っているかも知れません。

ちなみに私は階段を上っていると、突然頭上に龍が現れてビックリ。よく見たいと思っていたら、知らぬ間に階段を上り終えていました。(笑)
実は、エントランスに戻るまでには173段の階段を上ることになります。こう聞くと、結構な段数でしょ。しかし飽きの来ない作りのためか、そんなに階段を上っている印象はないですね。
博物館の紹介(その2)
旅先で訪れた博物館を、下記記事で紹介します。
五色台の絶景を満喫できる屋上展望台

瀬戸内海歴史民俗資料館の見どころは、豊富な展示品だけではありません。本資料館にきて、絶対に外せないのは屋上展望台からの眺望です。
なので、展望室を全て見て終えたら屋上展望台へ向かいましょう。この展望台へ向かうには、空へ向かって伸びるような階段があるのですが、いきなり上るのはちょっと待って下さい。
というのは、外を覗いてみると岩山が見えます。実は、これ安山岩の山ですよ。安山岩は、本建物の石積みの外壁として積まれたものですね。
もともとは、岩がところどころに吐出した雑木林でしたが、地面を掘削しようとしても岩だらけで重機が壊れてしまうということで、ダイナマイトを使って爆破しました。
そのような石との戦いの結果、あの外壁が誕生したのかと思うと感慨深いです。



展望台では、360度のパノラマ絶景を楽しめます。体の向きを変えながら五色台の豊かな自然を満喫して下さいね。山上にある展望台のため、遠くまで見渡せるのがGood。
青空の下、陽光に照らされた真っ青の瀬戸内海に直島や柏島、豊島、男木島、女木島、小豆島など多くの島々が織りなす景観には、拍手喝采を贈りたい。
また、紅峯や串ノ山、黄ノ峰、青峰など多くの山並みの景観も素晴らしい。遠くには、高松市街が見て取れます。

そのような景色の中で、山頂が平べったい山を発見。あれはまさしく高松市のシンボル・屋島です。その特徴的な景観のため、いつ見ても分かりやすい。すぐ近くには、五剣山も見えます。
屋島は絶景スポットだけでなく、屋嶋城跡や屋島寺などがあり、五剣山の中腹には八栗寺といった見どころが満載ですね。
瀬戸内海歴史民俗資料館の基本情報とアクセス
| 住所 | 香川県高松市亀水町1412-2 |
| 電話番号 | 087-881-4707 |
| 営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(月曜日が休日の場合は原則として翌火曜日) 年末年始(12/29~1/3) |
| 入館料 | 無料 |
【アクセス】
- JR高松駅からタクシーで約25分
- 瀬戸中央自動車道「坂出北IC」から車で約30分
- 高松自動車道「坂出IC」から車で約35分
瀬戸内海歴史民俗資料館の駐車場
瀬戸内海歴史民俗資料館には、無料駐車場があります。(普通車30台、大型バス可)
まとめ

五色台の中腹に建つ瀬戸内歴史民俗資料館は、周囲の景観にマッチした魅力的な建物です。
瀬戸内海文化の資料の収集や保管、研究を行なっており、館内では木造船や船大工用具、農具、芸能など様々な展示品を公開しています。
香川県が運営する文化施設ということで、公共の福祉・教育・教養の向上を目指しているそうですね。それに、これだけの規模を誇る博物館でありながら、無料というのは実にありがたいですよ。
香川県高松市や坂出市へ訪れる機会ががあれば、ぜひ風光明媚な五色台へ足を運んでみよう。そして、瀬戸内歴史民俗資料館へ訪れて、瀬戸内海地方で暮らす人々の生活に触れてみてはいかがですか。



