
播磨の小京都・兵庫県たつの市には、桜の名所として知られる龍野城があります。
明治維新の廃藩置県により取り壊されたのですが、公園化するに当たり、次々に建物が再建されました。
絵図を参考にした再現なので、忠実な復元とはいきませんが趣きのあるデザインが素晴らしい。特に立派な唐破風の玄関を持つ本丸御殿は見事なり。無料で中へ入れるので、御殿建築の豪華な装飾などを楽しみましょう。
また、桜をバックに石垣の上に建てられた隅櫓が、実に写真映えするスポットですよ。城跡内を散策しながら、往時の情景を思い浮かべてみてはいかがですか。
本記事では、魅力ある龍野城の見どころを紹介します。
龍野城とは

龍野城は、兵庫県たつの市龍野町に位置し、室町時代に播磨の守護大名であった赤松政則の子・赤松村秀が鶏籠山(けいろうさん)の山頂にお城を築いたのが始まりです。
戦国時代には、羽柴秀吉による播磨平定後に家臣であった蜂須賀正勝が治めましたが、その後は福島正則・木下勝俊・小出吉政など次々に城主が変わりました。
1658年(万治元年)に京極高和の丸亀移転に伴い破却されることに。それから14年後の1672年(寛文12年)になると、脇坂安政の手によって龍野城が再建された次第です。
再建するに当たり、山頂の郭を放棄。そして、山麓に陣屋形式の城郭に囲まれた大きな邸宅を築いたという。真実は分かりませんが、幕府に遠慮して天守は造らなかったそうですよ。
実際、天守がなくても十分やっていけるほど、穏やかで平和な時代が続いたのでしょう。

時は流れ明治時代に入ると、冒頭で触れた通り、廃藩置県の政策により龍野城は取り壊されてしまう。現在は石垣のみが遺構として残り、昔の絵図を元にして本丸御殿・隅櫓・埋門などが復元されました。
龍野町のシンボル的な存在である白壁土塀の美しい景観は、龍野城および城下町の歴史的風情を際立たせています。
本丸に復元された立派な風格を持つ「本丸御殿」

本丸へ足を踏み入れると、ほぼ中央辺りにドーンと構える立派なお屋敷に目が留まるでしょう。
それが本丸御殿ですね。この御殿は江戸時代の絵図に描かれていたものを、1979年に復元しました。藩主の住まいや龍野藩の政庁に使用していたといいます。
中へ入る前に、本丸御殿の外観を楽しんでみよう。玄関口には、日本の伝統的な建築様式に見られる唐破風(からはふ)が見て取れる。天守や寺社仏閣の建築物などでよく見られる装飾ですね。優美な曲線がいい感じ。

また、二つの建物が並列に並び、渡り廊下で結ばれているのが分かるだろうな。この渡り廊下で囲まれたところには、中庭があります。
絵図を参考にした再現なので、忠実な復元は難しいと思いますが、御殿建築の様々な要素を採り入れているみたい。

屋根へ目を向けると、屋根瓦には脇坂家の家紋である「輪違い紋」を発見。2つの輪を横に並べてから見合わせて描いている様は、シンプルでありながら美意識を感じさせます。
平安時代の頃には、当時の多く人たちに愛好された家紋だったそうですよ。

玄関へ入ると、大きな太鼓と牛の置物に目が留まる。どう見ても撫で牛だろうな。上屋敷の庭園にあった池から出土したそうな。
撫で牛は風化しているみたいで、ガラスケースに収まっているため、撫でることができないのが残念でやまないです。(撫で牛をみると、自然に撫でたくなるのはなぜだろうか?)

こちらの部屋は「上段の間」ですよ。上段の間といえば、主君と家臣が対面する場所として使われる部屋のこと。
床を一段高くした構造なのが特徴的ですね。この部屋で龍野の政(まつりごと)を行なっていた情景を思い浮かべると、見えてくる光景も変わってくるぞ。

上段の間の手前にあるのが、下段の間。上段の間と下段の間の障壁には、狩野派や円山派など当時最高の画家たちによって全面にわたり、花鳥風月や人物画が描かれていたといいます。
色々な部屋がありますが、個人的に気に入った龍の間を紹介。龍の間の襖(ふすま)には、今にも空へ向けて駆け上って行く龍の姿が描かれている。

こちらが、その襖絵「龍煌々志」です。どうですか、凄くカッコイイでしょ。
この襖絵は、たつの市出身の龍画家・出口龍憲氏により昭和59年に寄贈されました。やはり座敷には、このような絵がよく似合いますね。



部屋の中に置かれた甲冑や家財などを見ていると、つい忘れがちになるのが天井の存在ではないだろうか。
各部屋の中には天井絵があったり、和室だけでなく洋風の部屋もあるのでお見逃しなく。

おっ、雛壇があるではないですか。雛壇があると華やかな雰囲気がするし、どこか品を感じるのがいい感じ。
常設なのか時期的なものなのかは分かりませんが、どちらにせよ、スルーするのはもったいないですね。

渡り廊下の窓越しから、枯山水風の中庭を見物できます。
規模は小さめですが、眺めていると心に静けさをもたらしてくれますね。
石垣の上に建てられた趣のある「隅櫓」

本丸の南西には、隅櫓が建てられています。
石垣や白壁土塀が連なる通りは、城郭として風情を感じてしまうので、とても絵になるフォトスポットですよ。
そもそも龍野城を代表する名所として人気が高い。実際、私だけでなく他の観光客も様々な角度でこの隅櫓の景観を撮影していました。
特に桜シーズンに訪れるのがおすすめ。桜をバックにそびえ立つ隅櫓はより美しく感じます。

隅櫓をじっくりと観察すると、コンパクトサイズの望楼型で二重の軒唐破風を持ち、出格子窓や隅の石落としが見て取れる。
また、白い漆喰で塗り固めた外観は美観だけでなく、防火性を高めているのだろうな。それに屋根の上にあるシャチホコもGood。
どこに出しても恥ずかしくないほどの立派な櫓ですね。

本丸へは、こちらの西門から入ると右手側に隅櫓が直ぐに見えてきます。この西門は、高麗門形式であり両脇の小屋根が特徴的。
扉を開いた時に、その下に扉が収まるため、雨に濡れないそうだ。う~む、実に実用的なデザインが秀逸です。

西門をくぐり抜けた後は、まずは隅櫓へゆっくりと近づいてみよう。
桜並木の奥に佇む幻想的な隅櫓を楽しめます。残念ながら隅櫓の中へは入れないので、外観のみを楽しんで下さいね。
【城や城跡の紹介(その1)】
旅先で訪れた城や城跡を、下記記事で紹介します。
土で門内を埋めて敵の進入を防ぐ「埋門」

石垣の間に復元された埋門(うずみもん)は、櫓門形式であり、右手側に櫓が連続して並んだ構造をしています。
見るからに防御力が高そうだ。埋門といえば、一般的に裏門のことですが、今の龍野城では大手門のような扱いです。

築城時では名前通りに裏門の役割だったみたいですが、脇坂氏が龍野城を修築した際に造り替えたのではないだろうか。
特に周囲には、案内板などがないため真相は不明です。

埋門を通り抜けて、左手側に折れると横矢掛かりのようになっています。侵入者が細長い通路を通過中に、側面から矢や鉄砲で攻撃するのに適しているぞ。
また、この埋門はいざという時に、土で門内を埋めてしまい、進入を防ぐ仕掛けが施されていたという。
そんな物騒な通りですが、今や石垣の上に桜並木が並ぶ様は、歩いていて楽しい気分になります。
【城や城跡の紹介(その2)】
旅先で訪れた城や城跡を、下記記事で紹介します。
小学校の校門として残る「家老門」

隅櫓から少し南側へ歩いていると、大きな切妻屋根を載せた立派な門に気が付くだろう。
それが高さは4.9mもある「家老門」ですね。この家老門が建つ場所には、かつて龍野藩第三家老邸がありました。邸宅そのものは、昭和32年に全焼してしまい、今や門のみがその存在を伝えています。
ちなみに焼け跡には、龍野小学校体育館が建てられている次第です。
家老門の屋根にのる鬼瓦を確認すると、本丸御殿と同様に脇坂家の家紋「輪違い紋」を見て取れることから、龍野城の貴重な建築物の一つですね。

話は変わりますが、家老門のある場所から道を挟んで反対側には、白壁土塀の中に立派な門があるぞ。
そのため初見では、こちら門を家老門と勘違いするかも知れません。この門前の表札には「龍野小学校水練場」と書かれているので、よく見れば家老門ではないと分かります。
それにしても、お城の中に水練場(プール)があるのかと思うと、何だか凄く感じませんか。
龍野城の基本情報とアクセス
住所 | 兵庫県たつの市龍野町上霞城128-1 |
電話番号 | 0791-63-0907(龍野城・龍野歴史文化資料館) |
営業時間 | 8:30~17:00 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌日) |
入場料 | 無料 |
【アクセス】
- JR本竜野駅から徒歩約20分
- 山陽自動車道「龍野IC」から車で約10分
龍野城の駐車場
龍野城の駐車場は、隣接する龍野歴史文化資料館の無料駐車場(普通車 約11台)と共有しています。
また、龍野城の西側には、少し離れた場所に龍野公園がありますので、こちらの無料駐車場(普通車 約30台)を利用するのもいいですね。
この駐車場からは、龍野城まで約10分ほど歩きます。
まとめ

播磨の小京都・兵庫県たつの市には、白壁が綺麗な古い城下町が残っています。
その中でも石垣や埋門、隅櫓により趣のある風情を感じるのが龍野城ですね。もとから天守が無く、本丸内部に復元された立派な本丸御殿により、個人的には豪華なお屋敷といったイメージを持ちました。
城跡は大きすぎず、小さすぎず散策するのに丁度よいかも。特に石垣と隅櫓が織りなす景観には、思わずカメラのシャッターを切ってしまうほどですよ。
桜の名所としても知られているので、桜シーズンに足を運べば、より美しい景観に出会えます。
たつの市へ観光する際には、龍野城と共に周辺にある三木露風旧邸跡や醤油の郷大正ロマン館、うすくち龍野醤油資料館、旧脇坂屋敷、聚遠亭(しゅうえんてい)などへ訪れてみてはいかがですか。