兵庫県の山奥で、ひっそり佇んでいる神子畑選鉱場跡(みこばたせんこうじょうあと)を知っていますか。
予備知識が全くない状態でこの選鉱場跡を見たら、かなり驚くでしょう。
100人に聞いたら、きっと100人とも「一体何のために造られたのか?」と疑問に思うはず。
廃墟マニアの間では、以前から知られている人気スポットであり、遠くから観光へ訪れる人もいるという。
かつて東洋一と呼ばれた神子畑選鉱場跡は、すでに役割を終えて久しいですが、今でも圧倒的な存在感を放っていますね。
本記事では、採掘された鉱石から鉱物を取り出していた神子畑選鉱場跡の見どころを紹介します。
東洋一と呼ばれた不夜城「神子畑選鉱場跡」とは
兵庫県朝来(あさご)市の県道429号を北上していると、突然目の前に飛び込んでくる大きな建造物。それが、神子畑選鉱場跡です。
神子畑選鉱場は、1919年(大正8年)に竣工し、何度も拡張を続け東洋一と呼ばれるまで発展しました。
「選鉱場」とは、鉱山から採掘された鉱石から鉱物を取り出すための施設ですね。かつてこの選鉱場では、養父市にある明延鉱山(あけのべこうざん)で採掘された錫や銅、亜鉛などが選鉱されていたという。
最盛期には、約3,000人が働いたと言われており、1987年(昭和62年)に明延鉱山の閉山に伴い、68年の長い歴史に幕を閉じました。
尚、最盛期は、灯りを付けたまま夜間も止まらず稼働を続ける姿から「不夜城」とも呼ばれていたそうです。閉鎖後、一部の施設は解体されましたが、基礎構造物は残され今に至ります。
日本の近代化を支えた建造物として、近代化産業遺産群に認定されており、近年には日本遺産に選ばれました。
神子畑選鉱場跡が注目された理由
神子畑選鉱場跡が、廃墟好きの人たちに知れ渡ったのは、2000年代に起こった廃墟ブームと関係があります。
廃墟巡りと言えば、長崎県の軍艦島(端島)を思い浮かべる人も多いでしょう。
2009年には、上陸ツアーが解禁となり、多くの方が訪れるようになりました。
その後、高い文化的な価値が認められ、2015年に世界文化遺産に登録されたことは、多くの人が知るところです。
こうして、廃墟巡りが市民権を得ることに成功した訳ですが、この流れに乗り、神子畑選鉱場跡の人気が高まっていきました。
神子畑選鉱場跡の見所を紹介
圧倒的な存在感を放つ「巨大選鉱場」
神子畑選鉱場の大きさは、幅110m、高さ75mにも及びます。
2階建ての一軒家の高さが、約6~7m程度なので、その大きさは圧倒的です。(2階建ての一軒家と比べて約10倍の高さ)
山の斜面を上手く利用しており、ひな壇上に22層に渡っていますね。
下から真っ直ぐ伸びていくレールが残されており、かつて資材や人を各作業場へ運ぶために使われていたという。
このレールの上をインクラインと呼ばれるケーブルカーが走っていたそうだ。
頂上には、操作室の姿も見て取れます。
レールの中心当たりを見てみると、線路が複線になっていますが、これはすれ違いのためですね。
尚、残された基礎コンクリートなどの遺構は、公開されていますが実際に作業場へは上れません。
作業場へ上がる階段前には、金網のゲートで囲まれています。
危ないので、金網を越えて作業場へ行ってはダメですよ。
当時は、明延鉱山と神子畑選鉱場は鉄道で結ばれており、施設の最上部へ列車が到着していました。
そして、高い場所から低い場所へ順番に下ろして作業を行なっていたそうです。
【巨大建造物・建築物の紹介】
旅を続けていると、神子畑選鉱場のような巨大建造物に出会えたりしますので、下記記事で紹介します。
円形の巨大建造物「シックナー」
選鉱場の前には、円形の巨大な建造物があり、一際目に留まりました。それがこちらのシックナーという設備。
選鉱場から鉱物の混じった液体は、ここへ流し込まれていたそうです。
シックナーは、ドロドロの液体状になった鉱石から遠心力を使って鉱物を分離回収するために使われるもの。
つまり、鉱石を回転させ、使える金属と水分、薬品ごとに分離させていたのです。
周りは柵で囲まれているため、中へ入れませんが、近づくことで内部を見ることができますよ。
様々なスイッチが並ぶパネルやモーターのような機械、錆びた菅など見られ、メカ好きには堪らない。
シックナーは2つあり、大きい方は直径30m、その隣にある小さい方は直径16m。
それに円柱が立ち並ぶ姿は、まるでギリシャの神殿を彷彿させます。
洋風建築の「ムーセ旧居」
神子畑選鉱場跡の周辺は、史跡公園として整備されており、関連施設を見学できますね。この選鉱場跡の直ぐ下にあるのは、こちらのムーセ旧居。お洒落な洋風の外観が特徴的です。
明治初期の建築文化を表す貴重な建物ですよ。かつてこの建物には、鉱山の指導にあたっていたフランス人の技師ムーセが暮していたそうな。
もともとは、生野鉱山の外国人宿舎として建てられていましたが、1888年に神子畑に移築され、事務所や診療所として利用されました。
中へ入ると、神子畑選鉱場にまつわる資料や写真、神子畑のジオラマなどが展示しています。
必ず見て欲しいのが、こちらの鉱石。
神子畑選鉱場で扱っていた鉱石の一つですよ。
とある部屋の机の上に置かれていました。
特に鉱石についてアピールはしていなかったので、見逃す恐れがありますよ。(私は、館内にいた職員から教えてもらいました。)
また、屋根の瓦に注目。菊の御門が施されています。
これは、鉱山が一時期皇室の所有になっていたからですね。
ムーセ旧居
- 住所 兵庫県朝来市佐嚢1826-1
- 電話番号 079-666-8002(鉱石の道神子畑交流館「神選」)
- 営業時間 10:00~17:00
- 休館日 水曜日、年末年始
- 料金 無料
【資料館や博物館の紹介】
ムーセ旧居のような資料館や博物館では、知らないことを学べる機会が多いですね。下記記事では、旅先で訪れた博物館などを紹介します。
かつて1円で運行していた「1円電車」
神子畑選鉱場跡の前には、カラフルなトロッコが展示されています。こちらがそのトロッコ。かつて明延鉱山と神子畑選鉱場の間を走っていました。
1929年(昭和4年)の開通時は、鉱石輸送のための電車だったのですが、1945年(昭和20年)に客車が連結されたという。
客車は、従業員の通勤や家族の交通の便を図るため導入されたものです。
客車の料金は、1952年から1985年の間、ずっと1円であったことから「1円電車」の愛称で地域住民に親しまれていました。
往時の場所に現存する日本最古の鉄橋「神子畑鋳鉄橋」
神子畑選鉱場跡から東へ約2kmほど離れた所には、全鋳鉄製の橋が架けられています。それが、こちらの神子畑鋳鉄橋。
生野と神子畑鉱山を結ぶ鉱石の道に架けられたもので、往時の場所に現存する日本最古の鉄橋です。
また、鉄橋としても日本で3番目の古さを誇ります。
橋長16.0m、単径間アーチ(上路型)形式で、全鋳鉄製というのは大変珍しい。
生野鉱山開発を担ったフランス人技師団の技術指導の下、日本人技術者が設計・施工したそうです。
建設した際には、5本の鋳鉄橋があったのですが、現存するのは、神子畑鋳鉄橋と羽淵鋳鉄橋(移設)の2橋のみ。
是非、神子畑選鉱場跡へ向かう際、合わせて訪れてみましょう。
神子畑鋳鉄橋は、日本遺産「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道~資源大国日本の記憶をたどる73kmの轍~」の構成資産になっています。
尚、橋の近くには、神新トロッコが展示されていました。
神子畑銀山繁栄の時代、神子畑で採掘された銀鉱石を生野銀山へ搬送するために、JR新井駅(当時は国鉄)まで運んでいたという。
1952年(昭和32年)になるとトラック運送が導入され、トロッコ運送は廃止されました。
【珍しい橋や美麗な橋の紹介】
旅の道中では、神子畑鋳鉄橋のような貴重な珍しい橋に出会うこともありますね。下記記事では、そんな珍しい橋や美麗な橋を紹介します。
石の塔と神秘的なイチョウの木
神子畑選鉱場跡から2~3分程度歩いた所には、神子畑小学校と保育園の跡地や神子畑選鉱場の社宅の跡地があります。
校舎があった裏には、石のレリーフの塔が設置されていました。
掘られているレリーフを良く見てみると、鳥や鹿、五輪マークなどバラエティーに富んでいます。
オバケのQ太郎もありました。良く雰囲気を表していますね。(笑)
この塔があった所から少し歩くと見えてくるのが、一際目を引く大きな木です。
まるで御神木のようなオーラを醸し出していますよ。
とても大きなイチョウの木なので、紅葉の時期は凄く綺麗だと思います。
特に歪な枝の生え方が、神秘的な感じがしますね。
根本には、お地蔵様が祀られていました。
かつて神子畑選鉱場で働く作業者や小学校・保育園の子供たちを見守っていたのでしょう。
そして今でも地元に住む人たちを見守り、この場所に訪れる観光客を見守り続けているのではないでしょうか。
【巨木の紹介】
迫力ある巨大な木を見かけると、大いなる力の存在を感じるのは何故でしょうか。下記記事では、そんな巨木を紹介します。
鉱石の道神子畑交流館「神選」へ立ち寄ろう
2019年(令和元年)6月29日にオープンしたのが、鉱石の道神子畑交流館「神選(しんせん)」です。
神選では、観光振興の促進による地域の活性化を図るため、神子畑選鉱場に関する情報を発信しています。
また、休憩場所として利用できるので、神子畑選鉱場跡へ訪れる際に立ち寄ってみては如何でしょうか。
館内では、1975年(昭和50年)代頃の神子畑周辺を再現したジオラマがありますよ。
更に神子畑地域に伝わる神輿が展示されていたり、神子畑選鉱場オリジナル商品などお土産物の販売も行っています。
館内では、鉱石の道折り紙の無料配布を1人1セットで行っていました。
折り紙で作られたこちらの列車。可愛いですね。
列車の他にもシックナーやトロッコ道、神子畑鋳鉄橋、カラミ石などが作れるようなので、是非チャレンジしてみて下さい。
- 住所 兵庫県朝来市佐嚢1842-1
- 電話番号 079-666-8002
- 営業時間 10:00~17:00
- 休館日 水曜日、年末年始
- 料金 無料
神子畑選鉱場跡の基本情報とアクセス
住所 | 兵庫県朝来市佐嚢1842-1 |
電話番号 | 079-666-8002(鉱石の道神子畑交流館「神選」) |
【アクセス】
- JR新井駅からタクシーで約15分
- 播但連絡道「朝来IC」から車で約15分
神子畑選鉱場跡の駐車場
神子畑選鉱場跡には、無料駐車場があります。(普通車26台、バス4台)
まとめ
神子畑選鉱場は、日本の近代化に大いに貢献した施設でした。
今は可動していませんが、見学は自由にできます。(構内は立入禁止)
決してアクセスの良い場所にある訳ではありませんが、一見の価値がある建造物ですね。
廃墟好きの方はもとより、そうでない方も是非足を運んでみて下さい。
観光だけでなく、様々な事を学べるでしょう。