
日本のお寺には、禅宗や浄土真宗、曹洞宗など数多くの宗派があることを知っている人は多いだろう。
その中の一つには浄土宗があり、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と念仏を唱えることで、極楽浄土を願うことで知られています。この浄土宗の開祖は、岡山県の久米南町で生まれた法然上人(ほうねんしょうにん)ですね。
彼の生誕地に建てられた「誕生寺(たんじょうじ)」には、繊細な寺社彫刻を楽しめる御影堂や、襖絵が見事な「方丈」など見どころがいっぱい。特に境内で、ひと際存在感を放つ樹齢約870年の「逆木のイチョウ」は迫力満点ですよ。
本記事では、2024年に開宗850年を迎えた「誕生寺」を紹介します。
目次
誕生寺とは

誕生寺は、岡山県久米郡久米南町に位置する浄土宗の寺院です。山号は栃社山(とちこそさん)、ご本尊は法然上人(圓光大師)であり、1193年(建久4年)に源平合戦で活躍した熊谷直実により開基されました。
熊谷直実は、源平合戦にて戦の世の無情に心を傷め出家したそうです。そして、法然の弟子となった人物ですよ。
境内には、国指定の重要文化材である「山門」や「御影堂」を始め、国の登録有形文化財に選ばれた「無垢橋」、岡山県指定重要文化財の「大仏」や「木造阿弥陀如来立像」など数多くの見どころがあります。

こちらは、15歳で比叡山へ旅立つ決意を表した法然上人のお姿。どうですか、凛々しいでしょ。母のいる故郷を離れ、険しい修行の地へ赴く覚悟が見て取れますね。
例年、4月の第3日曜日には、法然上人の御両親を供養する浄土宗唯一の大法要を開催。室町時代から現代まで続く、日本三大練供養の一つに数えられています。
「山門」は国指定の重要文化財

誕生寺へ訪れると、最初に見かける建築物が「山門」です。山門は、俗世と仏の世界を隔てる境界となる重要なもので、神社の鳥居に当たります。
こちらの山門は、派手な架構を組む装飾性に富んでおり、浄土宗寺院の中では比較的例の少ない山門薬医門なんだそうな。じっくりと装飾を楽しんでいると、端にスピーカを発見。思わず「なぜスピーカが?」となりました。
どうやら主に参拝者へのご案内や、季節に応じた法話・お念仏の放送などを目的として設置されているようです。

山門を直ぐにくぐらずに、山門と続く白い水平線が引かれた筋塀(すじべい)に注目しよう。
筋塀とは、格式を表す白い水平線が引かれた築地塀のこと。こちらでは、最高の格式を表す5本線を見ることができます。この筋塀は、1857年(安政4年)に伏見宮家より寄進されました。
また、筋塀の屋根瓦には、菊の御門(菊花紋章)がいっぱい。これだけでも皇族ゆかりということが分かりますね。
美しく繊細な寺社彫刻を楽しめる「御影堂」

山門をくぐり抜けて最初にお参りしたいのは、御影堂と呼ばれる本堂ですね。
1579年(天正7年)に備前国(現:岡山県)を拠点に活躍した智謀の戦国大名・宇喜多直家(うきた なおいえ)により、2代目の本堂は破壊されました。現在の本堂は、1695年(元禄8年)に再建された3代目となります。
本堂内には法然上人の御影がご本尊として祀られており、江戸時代に多くの人が拝観できるよう「出開帳(でがいちょう)」で江戸まで赴きました。
出開帳とは、本拠地からご本尊や秘仏などを他の土地へ運んで、期間限定で特別公開する宗教行事のこと。ご本尊を移動させるのは、歴史的にみても限られた珍しいイベントですね。江戸幕府の第5代将軍・徳川綱吉の生母(桂昌院)も大層喜ばれたと伝わっています。

そうそう珍しいといえば、誕生寺は唐破風造の向拝を持つお寺ですよ。その優美なシルエットから、格式の高さがにじみ出ているように感じました。向拝の下にある扁額に目を向けると、「誕生律寺」と呼ばれていた時の名残が見て取れます。
この「律」という文字を示すことから、かつて修行や戒律を厳格に守る「律宗」の制度的な意味合いが強かったのだろうな。



また、周囲の彫刻に注目しよう。迫力ある龍や美しい麒麟といった神獣の彫刻が施されていて、今にも動き出しそうです。
木鼻や蟇股(かえるまた)、欄間など様々な場所に緻密に作られた彫刻は、建物の美しさをより引き立ててくれますね。それに加え、邪気を払う意味も込められているのだから合理的ともいえるのではないでしょうか。
意味といえば、本堂へ上がる階段が6段なのも意味があるぞ。というのは、悟りを開いて仏を目指す菩薩が、そこに至るまでの道のりとのこと。
つまり、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧といった「六波羅密(ろくはらみつ)」を踏みしめて上がるという意味があるそうですよ。
なるほど、そういうことをあらかじめ知っていると、本堂へ上がるのも身が引き締まります。

色々と見どころの多い本堂ですが、特に外せないのは棟の中央に配置された金色の宝珠です。これは、西方浄土の位置を表しており、極楽浄土の象徴という。
誰しもが、物質的な豊かさや一時的な快楽を求めがちになりますね。しかし、「極楽浄土」という変わらない心の依りどころを得ることが大切だそうです。
ちなみに、この宝珠は誕生寺に伝わる七不思議の一つに数えられています。
【神社仏閣の紹介(その1)】
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ひと際存在感を放つ「逆木のイチョウ」

山門を通過すると、目の前に現れるのは立派なイチョウです。こちらも御影堂の宝珠と同じく、誕生寺に伝わる七不思議の一つに数えられており、樹高約10m、幹回り約4mもある巨木の存在感は圧倒的ですね。
まるで根が広がるように枝が広がり、天に張るように見えることから「逆木(さかき)」と呼ばれています。この大イチョウの推定樹齢は850年もあるというのだから凄いものだ。
15歳の勢至丸(のちの法然上人のこと)が、比叡山に旅立つ際に杖として使っていた公孫樹の杖を、逆さにして地面に挿したものが成長して、ここまで立派に育ちました。きっと法然上人も喜ばれていると思います。

毎年11月の紅葉シーズンになると、鮮やかな黄色に染まる美しい姿は見事なり。初夏から夏の青葉の頃も壮観ですが、はやり紅葉シーズンがベストでしょう。青空と鮮やかな黄色のコントラストがとても映えますね。

冬の到来とともに葉を一気に落として再び芽吹くまでは、枝だけの状態が続くので、少し寂しい気持ちになる人も多いのではないだろうか。
しかし、力強く美しい枝ぶりを隅々までじっくりと観察できるので、これはこれでアリだと思います。
「方丈」には狩野派の絵師が描いた襖絵がいっぱい

御影堂の隣には、方丈(ほうじょう)と庭園があります。こちらは有料なので、まずは寺務所で受付(拝観料300円)して下さいね。
方丈とは、住職の居室や接客、法要、修行など多目的に使われる建物のこと。9時から16時まで見学できます。
座敷をぐるりと囲む廊下を歩きながら、鶴の間や蟇(がま)の間、唐獅子の間、人物の間などを見学しよう。その際、襖絵に注目。この襖絵は、幕末の雪舟ともうたわれた狩野派の狩野義信(かのう よしのぶ)の作ですよ。

こちらの「鶴の間」の襖絵を眺めてみると、鶴たちの優美で凛とした姿や愛嬌のある表情がいい感じ。
個人的には奥に見える扉が開いていたら、位置関係からして庭園が見えると思うので、より写真映えがすると思いました。



鶴以外にも鷹や賢人、獅子などが描かれた襖絵や、鮮やかな色彩が残る花鳥植物の板絵などがあり、とても見応えがあります。
また、法然上人から熊谷入道(熊谷直実のこと)に宛てた書状の複製や、誕生寺略縁起、法然上人一代記絵などが展示されているのでお見逃しなく。

こちらは「表上段の間」です。方丈の中でも最も格式の高い部屋なんだとか。来客をもてなしたり、重要な儀式に使われていました。さらに部屋の縁側からは、美しい方丈庭園の景観を楽しめます。

実はこの方丈内にも、七不思議が2つ展示されているぞ。まず一つ目が「椋の御影」です。
法然上人が生まれた際に、二つの白幡が飛んで来て椋の枝に掛かりました。そして、その初代の椋が枯れると、上人のお姿が昇天したと伝わっています。椋の御影とは、その名残ですね。

ちなみに、こちらがその椋の木の三代目です。奥の院へ向かう途中にある無垢橋の隣にあります。

二つ目の七不思議が「人肌のれん木」です。勢至丸が比叡山に旅立つ際に、身体を暖めるために母に与えた孝養のいちょうの枝(れん木)なんだそうな。実はこのれん木、不思議なことに人肌の温かさを保っているという。
そう聞くと、触りたくなるのが人情というもの。しかし展示物なので、そこはグッと我慢した次第です。
後から写真を見返すと、この木を撫でることで健康を祈願すると説明されていたのに気が付きました。ひょっとすると撫でて良いのかも。気になる人は、住職に確認して下さいね。
【神社仏閣の紹介(その2)】
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「方丈庭園」で美しい四季折々の風景を楽しむ

方丈の渡り廊下から手入れの行き届いた方丈庭園(法楽園)を見物できます。スギの木立が静謐さを際立たせていて、眺めていると心が穏やかになっていくのに気が付くだろう。
静かな場所に広がる美しい庭園の景観というのは、日常の喧騒を忘れてリフレッシュを図れますね。

また、白砂に石を配した枯山水もいい感じ。砂利の模様で波や水の流れを表したその景観は、より静謐さを物語っているかな。この「わびさび」を伝える景観は、見る側の想像力に委ねられるので、同じ景色でも心の持ちようによって様々に変化するのが面白いです。
そもそも「わびさび」は日本独特の美意識なので、外国人には理解されにくいという。なので、外国人に説明する際には、日本の文化や自然観を交えて伝えると理解されやすいと思います。

そんな景観を眺めていると、とある木の根元で小さなお地蔵様とタヌキの置物を発見。その仲睦まじい姿にほっこり。
個人的にこういう演出は大好きですね。枯山水のアクセントとしても愛嬌ある彼らの姿は、和みの空間を演出していると思いました。
奥の院・六角堂浄土院とその道中にも注目

本堂の裏手側には片目川が流れており、片目川に架かる無垢橋を渡ると奥の院へ向かえます。この無垢橋は、1920年(大正9年)に造られた貴重な石橋。国の登録有形文化財に指定されています。
古くなった石橋というのは、趣きがあって良いですね。実は、この片目川に面白いエピソードがあるので簡単に紹介します。
勢至丸が9歳の時、弓削に住む明石源内武者定明に夜襲を受けました。その際に勢至丸は定明の右目を射ち抜き反撃しましたが、夜襲により父親(漆間時国)を失ったそうです。定明は、片目川で撃たれた目を洗うと、その後、川には片目の魚が出現するようになりました。

「片目の魚?そんなバカな!!」と思った人。実物が方丈に展示されているで、しっかりと確認してみよう。それにしても不思議なことがあるものですね。


奥の院と聞くと、「本堂からかなり歩くのでは?」と思う人も多いだろう。実際にそのようなお寺や神社が結構あるので、そう思うのも無理はありません。
しかし、近場にあることも少なく、誕生寺は本堂から歩いて5分あれば辿り着くほどです。なので、本堂だけでなく、奥の院までお参りするのをおすすめします。

六角堂浄土院は、862年(貞観4年)に慈覚大師が創建しました。漆間氏(法然上人の親の一族)の菩提寺だったそうですね。
法然上人本人が書いた両親の霊牌と共に、阿弥陀如来立像が祀られているので、法然上人がどれほど両親を大切に思っていたのか伺い知れます。
【神社仏閣の紹介(その3)】
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法然上人の両親が眠る「勢至堂」

勢至堂は、法然上人の両親が眠る霊廟です。中央には、法然上人の幼名である「勢至丸」の由来となった勢至菩薩が安置されています。
父親は、亡くなる間際に勢至丸に対して仇討をするのではなく、仏道に生きることを諭したそうで、そのお教えなければ、法然上人は生まれなかったでしょう。
そう考えると、「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで誰でも救われるという浄土宗が誕生しなかったのですから、歴史の転換点と思いました。

こちらは、勢至堂の直ぐ近くにある「産湯の井戸」です。法然上人が誕生した際に使われたそうですよ。

この井戸の水は飲めるみたい。中をのぞいてみると、結構きれいな水かな。さすがにいきなり飲むのは躊躇します。張り紙に書かれていましたが、飲む場合は煮沸するとのこと。
浄化や心願成就のご利益がある霊水と言われています。
初代津山城主から寄進された「観音堂」

こちらは、初代津山城主・森忠政(もり ただまさ)より寄進された「観音堂」です。忠政は、織田信長の側近として、最期まで献身的に仕えた森蘭丸の末弟ですね。関ヶ原の戦いで戦功をあげ、城主となりました。
1631年頃に建てられたそうで、境内の中でも最も古い建造物なんだとか。そういうことを知ると、見逃すわけにはいきません。
伝統的な木造建築で、屋根は本瓦葺きとなっている。落ち着いた外観がいい感じ。名前で分かると思いますが、堂内には聖観音像が祀られています。
また、歌舞伎などでも有名な「八百屋お七」の供養を行ったことでも知られているお堂なんだとか。そのような経緯があるため、「お七観音」とも呼ばれています。
境内に佇む岡山県最大の「大仏」

先ほど紹介した「逆木のイチョウ」は、山門を入って直ぐに見かけるのでインパクトが抜群です。境内には、この大イチョウだけでなく、もう一つ存在感を放つ守護大仏が鎮座しています。
高さ6.42m、重さは450kgもあり、岡山県下で一番大きな大仏ですよ。1745年(延享2年)に鋳造されました。岡山県の指定重要文化財に選ばれています。
御影堂が戦火にあうと、二度とこのような悲劇が起こらないように願いを込めて造られたそうですね。

江戸期の鋳金仏として最高傑作の一つとして評価が高いです。そのため、太平洋戦争期に発令された金属供出令に対しても、保存を命じられたほどだ。お顔をよく見ると、とても顔立ちが整っていてハンサムさんかな。
せっかくなので、守護大仏の前に立って念仏を唱えよう。そうすれば、きっとお守りしてくれると思います。
誕生寺の基本情報とアクセス
| 住所 | 岡山県久米郡久米南町里方808 |
| 電話番号 | 086-728-2102 |
| 受付時間 | 9:00~16:00(方丈・庭園、宝物館) |
| 拝観料 | 方丈・庭園 300円 宝物館 300円 |
【アクセス】
- JR誕生寺駅から徒歩約15分
- 中国自動車道「津山IC」から車で約30分
誕生寺の駐車場
誕生寺には、無料駐車場があります。(普通車50台、バス20台)
まとめ

誕生寺には、山門や御影堂、観音堂、六角堂など見ておきたい建築物が数多くあります。
また、法然上人の産湯に使われた井戸や両親の墓、豊臣秀吉から賜った茶釜などが展示されている宝物館などにも足を運んでみよう。それに加え、誕生寺には七不思議が伝わっており、見どころが目白押しです。
法然上人が生まれ育った地を巡り、全ての人が救われる道を求めた彼の足跡を追うのも楽しそう。ゆっくりと境内を巡りながら、法然上人へ思いを馳せてみてはいかがですか。


