愛媛県今治市には、まるでラピュタを思わせる島があることをご存じですか。
その島は「小島(おしま)」といい、しまなみ海道をサイクリング中に通過する来島海峡大橋から良く見えます。
瀬戸内海に浮かぶ小さな島ですが、日清戦争時にロシアとの戦争を予見し、ロシア海軍の侵攻を防ぐ目的に芸予要塞(げいよようさい)を築きました。
その戦争遺跡群が今もなお島内に色濃く残り、まるでジブリアニメの「天空の城ラピュタ」のようだ。しまなみ海道の中でも穴場的な観光スポットですね。
本記事では、小島への行き方や芸予要塞跡の見どころを紹介します。
芸予要塞とは
芸予要塞の跡地が残る小島(おしま)は、愛媛県今治市に属し来島海峡の西部に位置する周囲約3kmの島です。
島内の山中には、赤煉瓦の兵舎跡、砲台跡、火薬庫などの施設がほぼ当時の姿のまま残されており、貴重な近代化遺産は見応えがある。
1899年(明治22年)に巨費を投じ、これほどの要塞をわずか2年の突貫工事で造り上げたことから、当時の危機意識の高さをうかがい知れる。
当時は帝国主義の真っただ中。負ければ列強によって植民地化されるため、国防には力が入ります。冒頭でも触れた通り、芸予要塞はロシア海軍の侵攻を防ぐために築いた海岸要塞だ。
日清戦争後しばらくして日露戦争が始まりましたが、けれど実際には、戦争で使われることはなく、砲台は旅順や朝鮮海峡へ送られた次第です。
その後、豊予要塞の建設が決定したことから存在意義を失い、1924年12月に廃止されました。2001年に「芸予要塞・小島砲台跡」が土木学会選奨土木遺産に選ばれ今に至ります。
【周辺の見どころ】
芸予要塞跡周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
瀬戸内海に浮かぶ小島への行き方(アクセス)
小島へは、今治市の波止浜港から出港している渡し船で移動します。こちらは、波止浜港の待合所。隣にある大きな石灯籠の「灯明台(別名:和式灯台)」が目を引くだろう。
波止浜港へは、JR今治駅からバスで約20分ほどかかり、ここから渡し船に乗って小島まで約10分ほどで辿り着きます。
渡し船に乗る前には、待合所内にある発券機から乗船券を購入しましょう。その際、小島では乗船券を購入できないので、必ず往復券を購入すること。
乗船券の料金は以下の通り。
- 大人 440円(往復)
- 小人 220円(往復)
- 自転車持ち込み 90円
- 待合所の利用時間:6:40~18:20(利用時間外は施錠します)
渡し船には、車は乗船できません。自転車の持ち込みはできるのですが、小島では走りやすい道がほとんどないため、波止浜港の駐車場で停めておいた方が無難ですよ。
こちらは航路と時刻表です。
「波止浜 → 来島 → 小島 → 馬島」の順番で移動し、その後は 「馬島 → 小島 → 来島 → 波止浜」の順に戻ってくる。なので、出航時刻と小島への滞在時間を良く判断し計画的に行動して下さいね。
ちなみに、私は7:05に波止浜から出発し、小島に3時間ほど滞在後、小島から10:20発の渡し船に乗り、波止浜へ戻ってきました。
この航路から馬島からでも小島へ移動できることが分かりますね。つまり、来島海峡大橋から馬島へ降りて、渡し船を使って小島へ移動も可能です。
波止浜港の周辺には、いくつもの造船所があるため、造船中やドック入りしている船を間近で見ることができる。渡し船が出航するまで見物していこう。
- 住所 愛媛県今治市波止浜4丁目1-2
- 渡し船の問い合わせ 0898-41-8425(有限会社くるしま)
波止浜港
芸予要塞跡の周遊コースと所要時間
こちらは、芸予要塞跡の周遊コースを表したマップです。このマップは、小島港から小島観光休憩所へ向かう途中で見つけました。
基本的に椿ロードと呼ばれる遊歩道(マップの赤い線)を歩くと、芸予要塞跡を一通り見て回れる。ほとんど一本道なので、こちらマップだけで迷わずに十分歩けます。(私がそうでした。)
島内には、こちらのような道案内が至るどころにあるのは、ありがたいですね。
小島は大きく分けると、南部エリア・中部エリア・北部エリアに分かれており、それぞれに芸予要塞の施設跡が残る。
まず始めに訪れたいのが、小島港の近くにある小島観光休憩所。ここを起点に以下の順番で歩くのが効率的ですよ。
- 小島観光休憩所
- 南部エリア
- 中部エリア
- 北部エリア
- 海岸道路
- 小島観光休憩所
各エリアを見て回った後は、山中を下り、海岸線に造られた道路(海岸道路)を使って小島観光休憩所へ戻ります。
所要時間は、1時間30分から2時間ほどで一通り見て回れる。余裕をみて3時間ほどの滞在時間を考えていれば十分でしょう。
【旅に役立つアイテムの紹介】
芸予要塞跡で役立つ様々なアイテムを、下記記事で紹介します。尚、ロードバイク用の補給食も紹介しますが、ハイキングでも役立ちますね。
椿ロードを歩こう
遺跡を見て回る遊歩道(椿ロード)は約1.8kmほど続き、アップダウンのある山中を歩きます。
その遊歩道には、2,500本の椿が植えられているので、春になれば綺麗に咲き誇る。椿の花が落ちる時期には、道一面に椿の花で覆われ、椿の絨毯(じゅうたん)が楽しめるそうですね。
私が訪れ日は、椿の絨毯(じゅうたん)といえるほどではありませんでしたが、それでも多くの椿が見られました。聞くところによると、要塞跡ではなく、この椿の絨毯を見に来る人もいるというのも納得かな。
自然のままで手つかずの椿ロードは、頭の上まで草木が覆い、椿のトンネルを形成しています。このような散歩道は、まるでジブリアニメの世界のようだ。ゆっくり歩くだけでもワクワクするだろう。
【花畑の紹介】
旅先で訪れた綺麗な花畑を、下記記事で紹介します。
芸予要塞跡の見どころを紹介
芸予要塞跡は、未使用のまま戦争が終了したため、明治時代の海岸要塞としては、ほとんど完全に近い状態で残っています。
個人的な感想として、100年以上放置されたとは思えないほど、保存状態が良いのでビックリしましたね。また、実際に触ることも可能ですよ。
先ほど紹介した周遊コース別に、見どころを紹介します。
小島観光休憩所の周辺(大砲のレプリカは必見)
桟橋から西へ少し歩くと、小島観光休憩所がありますが、まず目に飛び込んでくるのが、こちらの大きな大砲です。
この大砲は、NHKドラマ「坂の上の雲」のロケで実際に使われた28センチ榴弾砲のレプリカ。松山市が譲り受けた後、今治市が御厚意で頂き、ゆかりの地・小島へやってきました。
黒光りするボディと天に向けた砲塔が、今でも島を守っているように感じられる。
もともと中部砲台には、28センチ砲が6門あり、そのう内2門が旅順(現中国大連市)へ運ばれ、日露戦争の二百三高地の攻略に活躍しました。
こちらは、小島観光休憩所です。トイレや外には自動販売機がありますので、島を周遊した後で、次の渡し船がくるまでこちらで休憩していよう。
館内には、小島要塞の歴史を振り返られる写真を展示しています。
南部エリア(探照灯跡、南部砲台跡など)
小島観光休憩所から島の西端へ向けて約5分ほど歩くと、探照灯跡を見つけました。
自然の中に残された遺跡は、独特の雰囲気がありますね。かつて夜間に海峡を往来する船舶を照らしていた探照灯。今は台座しか残されていません。
階段を上ると、天に向かってそびえ立つ電波塔が良く見える。探照灯跡と電波塔の組み合わせが妙に印象的でした。
来た道を引き返し、島の東側へ向けて椿ロードを歩く。しばらくすると、発電所跡を発見。このレトロな雰囲気は、実に私好みだ。
レンガ造りの平屋建ての建物の外観は、ほぼ原形をとどめていますね。
中へ入ると、レンガが崩れていたり、色褪せた内装が見受けられ、長い年月を経ているのを実感できる。
古い建物なので、突然崩れてもおかしくないかも。中へ入る際には、周囲に十分気を付けよう。
発電所跡の奥には、まだ道が続いている。その道を歩くと眼下に民家が見えてくる。
そのまま約1分ほど歩いていると、南部砲台跡を見つけました。
南部砲台は、小島で一番南側にある小さな規模の砲台。竣工当時には、軽砲(12センチ加農砲)が2門設置されていたそうです。今は、砲座後と地下兵舎が残るのみですね。
階段を上り、砲台跡の周辺を歩いていると小さな社を発見。この場所で、今でも小島を見守ってくれているのでしょう。
発電所跡へ引き返し、再び東へ向けて椿ロードを歩くと、弾薬庫跡がありました。
砲台(28cm榴弾砲、24cm加農砲など)の砲弾を備蓄する場所なので、かなり頑丈に造られていたのだろう。
今は屋根が落ちてレンガ造りの壁面が残っています。
こちらは、弾薬庫の内部。結構広いですね。かつてこの場所に、たくさんの整理された砲弾が並んでいたのかと思うと、何だか怖いような感じがしました。
弾薬庫跡は、先ほどの発電所跡とともに撮影スポットとしていい感じ。陽光の当たり具合などを考慮しながら、記憶に残る1枚を撮ってみてはいかがですか。
中部エリア(指令塔跡、砲台跡など)
弾薬庫跡からしばらく椿ロードを歩くと、中部砲台跡と北部砲台跡へ向かう道が分岐しています。(案内板あり)中部砲台跡をスルーすることができるのですが、ぜひ足を運んでもらいたい。
中部エリアには指令塔跡あり、今は展望台になっている。そこからは、360度の風景を見渡せるのでおすすめです。
中部砲台跡のマップを見て分かるように、中部エリアには、砲座跡や地下兵舎跡、浄化装置跡、指令塔跡などの多くの遺跡が一ヶ所に集中しているので、見て回りやすい。
こちらは砲座跡です。ここには、主砲だった28cm榴弾砲が6門配備されていました。角度をつけて発射するため、海上から見えない構造だったという。
周囲には、ずらりと並んだ地下兵舎跡や井戸水の浄化に使った浄化装置跡が残されており、当時の様子をうかがい知れます。
こちらの階段を上った先に指令塔跡がある。
階段を上った後で振り向いて撮った写真がこちら。かなり急な階段なことが分かるだろう。なので、足元に注意しながらゆっくりと上って下さいね。
指令塔跡は、空が開け開放感がたっぷり。ベンチもあるので休憩しながら、来島海峡大橋と瀬戸内海の島々が織りなす絶景を楽しもう。
私が訪れた日は、当初曇りだったのですが、中部エリアへ到着するころには晴れてきたため、瀬戸内海の景色にテンションがさらに上がりましたね。
丁度桜が咲き始めたこともあり、花見としゃれ込みながら、しばらくの間この場所で休憩しました。
北部エリア(発電所跡、爆撃演習の爆破跡など)
北部エリアには、軽砲と24センチ砲の2つの砲台跡があります。
中部エリアへ向かう分岐点に戻り、北部エリアへ向かう道を歩いていると、まずは軽砲跡へ辿り着く。
軽砲跡のマップを見て分かるように、周囲には砲座跡や発電機跡、地下兵舎跡、井戸、浄化装置跡があるので、一通り足を運ぼう。
南部エリアと同じく、レンガ造りの発電所跡と地下兵舎跡が実によい雰囲気を醸し出している。
中へ入れますが、頭上や周囲に気を付けて下さいね。
この砲台跡から奥へ歩くと、海岸へ降りる階段がありますが、その階段を下りず奥へ歩けば、24センチ砲の跡地へ辿り着きました。
こちらが24センチ砲跡のマップです。マップを見ると探照灯跡があるみたい。
案内板がありましたが、そこへ向かう道がこちらのようだ。これは、先行きが不安で歩くのに勇気がいるぞ。なので、私は向かうのを諦めました。
北部エリアで注目すべき一番のスポットは、こちらの爆撃演習の爆破跡ですね。
戦争で使用されなかった要塞に、なぜ爆撃跡があるのか疑問に思う方も多いだろう。実はこれは国から波止浜町に島が払い下げされる際に交わされた条件に基づくものなんだとか。
その払い下げ条件というのは、日本軍機による爆撃演習の標的だったそうな。1926年(大正15年)8月15日から1週間かけて航空機にる爆撃演習が行われ、要塞の強度の高さを証明できました。
要塞の一部のみ破壊されましたが、それでも当時の建築技術の高さを物語る貴重な遺産なのは間違いないですね。
爆撃演習の爆破跡の奥には、北部砲台の司令塔跡へ向かう階段を発見。
階段の表面は、泥に覆われていたり、木々が入り込んでいたりして状態が非常に悪い。
結論からいえば、無理をしてまで上る必要性はありません。というのも、頑張って階段を上ってみて司令塔跡へ辿り着いたのですが、中部エリアの司令塔跡と比べて狭く、過ごしやすくない。
こちらが司令塔跡です。来島海峡大橋が良く見えましたが、中部エリアの司令塔跡や北部エリアへ向かう途中で良く見えるので、あえて苦労してまでこの司令塔跡から見る必要性がないと思いました。
特に泥がこびり付いた階段は滑りやすく、降りる時が凄く怖かったですね。この爆撃演習の爆破跡へ来たときに、もし階段の状態が悪いままならば上るのはやめた方が無難です。
砲座跡と爆撃演習の爆破跡を見終えたら、来た道を引き返し、海岸道路の案内板が指し示す方向へ下ると海岸線へ合流するので、そのまま西へ歩いて小島観光休憩所に戻りましょう。
散策時の注意事項
小島には、コンビニや商店などがありません。あらかじめドリンクや補給食を用意しておきましょう。また、自分で出したゴミは、きちんと持ち帰って下さいね。
先ほども触れましたが、小島観光休憩所にトイレとドリンクの自動販売機があります。山中には公衆トイレはありませんので気を付けよう。
それに山中では、アップダウンが続きますが、軽いハイキング感覚で探索できる。自然の中を歩くため、運動靴やスニーカなど歩きやすい靴を履き、肌の露出が少ない動きやすい服装をおすすめします。
芸予要塞跡の基本情報
住所 | 愛媛県今治市来島小島 |
電話番号 | 0898-36-1541(今治市役所 観光課) |
まとめ
瀬戸内海の来島海峡に浮かぶ小島には、戦争遺跡群・芸予要塞跡が色濃く残されています。
ほぼ当時のまま残された赤煉瓦の兵舎、火薬庫や砲台跡などの施設は、歴史を知る上でも貴重な遺産ですね。
小島には、芸予要塞跡の他にも海水浴場やキャンプ場が整備されており、釣りなどアウトドアを楽しめる。1日数便しか渡し船が出航しないため、時間には気を付けよう。
椿ロードを歩きながら、アニメ映画「天空の城ラピュタ」を思わせる風景を楽しんで下さいね。