明治初期まで小さな港町だった広島県呉市。
呉鎮守府が開庁したのち、海軍関連の施設が次々と建てられ、軍港の町として大きく発展しました。
大平洋戦争の最中、呉港の背後にある入船山には、海軍の軍用地として、呉鎮守府司令長官官舎が建てられた歴史があります。
入船山記念館は、その旧呉鎮守府司令長官官舎を中心に、お洒落な正門や旧海軍工廠塔時計など様々な見どころが盛り沢山。
呉観光の際には、足を運んでおきたい観光スポットですね。
本記事では、日本の近代化を体感できる入船山記念館の見どころを紹介します。
日本遺産「入船山記念館」とはどんな所
入船山記念館は、広島県呉市に位置し、呉の歴史をたどるためには、是非訪れたい施設です。
施設のメインになるのは、先ほどから何度も名前を挙げている「旧呉鎮守府司令長官官舎」ですよ。海軍高級将校庁舎としては珍しく、国の重要文化財に指定されていますね。
その他にも歴史民俗資料館や郷土館などが併設されており、呉の郷土資料や大日本帝国海軍関係の資料を展示しています。
入船山記念館は、1967年に開館しました。敷地面積は約1.2万平方メートルです。呉市中心部から東へ約1kmほど向かった所にある入船山公園の敷地北側を占めていますね。
日本遺産「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴~日本近代化の躍動を体感できるまち~」の構成資産にもなっており、NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」のロケ地の1つに選ばれました。
【周辺の見どころ】
入船山記念館周辺の見どころを、下記記事で紹介します。
入船山記念館のマップと所要時間
美術館通りを歩き、入口となる正門からメインの観光スポット「旧呉鎮守府司令長官官舎」までは、徒歩約3分ほどで辿り着きます。
全ての施設を見て回ったとしても所用時間は、1時間から1時間30分程度です。
尚、旧呉鎮守府司令長官官舎へ入るには、郷土館で受付をして下さい。
【見所①】金唐紙が目に付く「旧呉鎮守府司令長官官舎」
旧呉鎮守府司令長官官舎は、和洋折衷の独特な外観をしています。
東側から見てみると英国風の洋館そのものですが、西側から見れば和館に早変わり。
現代の建屋しか知らない人が見れば、まるで統一感がないため、驚くに違いありません。
1892年(明治25年)以降、司令長官官舎として使用されていましたが、戦後は、1956年(昭和31年)までイギリス連邦占領軍(BCOF)の司令官官舎として使用されました。
その後、1966年(昭和41年)に旧軍港市転換法に基づき呉市に無償貸与されることに。1967年(昭和42年)からは、一般公開され今に至ります。
屋根瓦は、粘板岩などの天然石を使用している魚鱗状ですよ。いわゆる「天然スレート」と呼ばれるもの。
加工して薄い板状にした天然石を建材にした天然ストレートは、人気の建材として、今でも屋根瓦に用いられています。
外観を楽しんだ後は、実際に館の中へ入ってみましょう。
その前に玄関のドアを素通りしてしまうと、もったいないですよ。
玄関ドアは、上側と左右共にイギリス製の美しいステンドグラスがはめ込まれています。
透明のガラスに細部まで装飾が施されているので、お見逃しなく。
そしてよいよ館の中へ入ると、更に驚くことが・・・
なんと洋館内は、「金唐紙(きんからかみ)」という高級な壁紙が、至るどころで使用されているじゃないですか。
うん、見栄えが大変美しく、重厚で荘厳な雰囲気がGoodです。
金唐紙では、金色の草花柄が描かれていますよ。更にトンボやセミなど14種類の昆虫が飛び回る春の草原の様子を表しているという。
現在、日本で金唐紙が使われいる建物は、わずが8箇所のみ。そのほとんどが国の重要文化財に指定されています。
また、バッキンガム宮殿の装飾にも使われるようになった大変貴重な壁紙なのです。
このような部屋で、当時の要人のおもてなしをした様子がありありと目に浮かびます。
西洋風のカーテンや座椅子、机椅子、棚など調度品も実に素晴らしい!
こちらは、昼食会の豪華な献立です。
うん、どれもこれも美味しそう。
華やかな洋室と打って変わって、和室は質素に映りますよ。
しかし、床の間や掛け軸、欄間の透かし彫り、茶室など意匠を感じるくつろげる空間は、日本人には良く合いますね。
個人的には、煌びやかな洋室もいいですが、やはり1日中くつろげそうな和室の方が落ち着くかな。
あなたは、洋室と和室どちらか好きですか。和洋折衷の長官官舎では、どちらの好みも満喫できます。
【特徴的な建築物】
旧呉鎮守府司令長官官舎のような特徴的な建築物を、下記記事で紹介します。
【見所②】東郷元帥ゆかりの住宅やイチョウ
海軍元帥・東郷平八郎提督は、日露戦争時の連合艦隊司令長官として活躍した人物です。世界三大提督の1人として知られていますね。
東郷元帥が大佐時代に鎮守府参謀議長として呉に赴任した際、宮原地区で過ごされた家が移管されていますよ。
尚、移管の経緯は、1980年(昭和55年)に呉東ロータリークラブ創設20周年記念事業の一環だそうです。
家屋は、木造平屋造瓦葺で建築面積は37平方メートルの規模ですね。日本遺産の構成文化財であり、登録有形文化財「旧東郷家住宅離れ」で登録されています。
現在は、休憩所として開放されているので、是非立ち寄りましょう。
私が訪れた日は、「呉を描くコンテスト2022」が催されており、呉市の景観などを描いた絵が沢山展示されていました。(喜)
このようなイベントは嬉しいですね。良いタイミングで来訪できて超ラッキーかな。
また、少し離れたところには、東郷元帥ゆかりのイチョウがありますよ。
このイチョウにはいわれがあり、それは東郷元帥がかつて英国留学していた時期まで遡ります。
東郷元帥は、造船の町ペンブローグにある英国海軍官舎の庭へイチョウを植えました。時は流れ、日露戦争の勝利で有名になると、ペンブローグのイチョウは「東郷元帥のイチョウ」として語り継がれることに。
そして、そのイチョウから挿し木で育てられた苗木を、日本へ帰郷させる計画が地元住民の間ですすめられ、ウェールズ国立植物園で栽培後に無事帰郷を果たした次第です。
スクスク育ち続けていけば、新たな名所になる日もそう遠くはないでしょう。
【見所③】お洒落な正門や旧海軍工廠塔時計などの構造物
入船山記念館の入口にある正門の周りは、赤レンガ調の床石が敷き詰められています。
そのため、レトロ感をたっぷり感じますよ。正門の上には、まるで魔法使いの杖のような物が掲げられており、「ようこそ、おいでました」と言っているようですね。(笑)
門をくぐり抜けると、路面に注目して下さい。
通路に敷かれている石は、日本で6番目の古さを誇ります。1909年(明治42年)に開通した市内の電車で使用されていたという。
この敷石は、旧呉鎮守府司令長官官舎まで続いていますよ。
正門から奥に向けて少し歩けば、右手側に旧海軍工廠塔時計が見えてきます。
かつては、呉工廠のシンボル的な存在であったものですね。
1921年(大正10年)から1945年(昭和20年)の終戦まで、呉工廠の屋上に設置されていました。
その後、1971年(昭和46年)にこの地へ移築され、1981年(昭和56円)に修復・復元作業を行ったそうです。
そして現在進行形で、時を刻んでいますよ。つまり、今でも現役の時計なのです。
実は単に動くだけでなく、1日に4回(9時、12時、15時、17時)にメロディーが流れる仕組みなんだとか。
どのようなメロディーなのか聞いてみたいと思いませんか。私は後からこの事実を知り、後10分少々滞在していれば、メロディーがなり響いていたため、悔しい思いをしました。(泣)
なので、メロディーに興味がある方は、訪れるタイミングを見計らうようにしましょう。
実際、間近で国産最古の「電動親子式衝動時計」を見学できるのはここだけですよ。尚、この塔時計は、日本遺産の構成品であり、国の登録有形文化財に指定されています。
旧海軍工廠塔時計は、文字盤の大きさは直径1.5m、高さは10mありますよ。当時は画期的な構造を持った時計だったそうです。
塔時計から少し奥へ歩いた左手側には、番兵塔がありますね。
その名前の通り、警備のために番兵が詰めていた建造物です。足元部分の基礎石は、昼夜問わず番兵が立っていたので、足形が残るくらいすり減っている。
うん、本当にお勤めご苦労様といえますね。
その他の構造物には、旧高烏砲台火薬庫がありますよ。
この火薬庫は、1901年(明治34年)に呉市警固備屋に位置する高鳥台に築いた呉要塞の砲台火薬庫です。終戦を迎え、処分を検討されていましたが、入船山記念館が創設される話が持ち上がり、移築されました。
火薬庫の中へ入ることができますよ。中は呉市の観光PRの動画が流れていたり、案内ビラが置いています。
尚、旧高烏砲台火薬庫は、日本遺産の構成品であり、国の登録有形文化財です。
この火薬庫のすぐ近くには、大きな砲台があります。
実は、これ実物の高角砲ですよ。高角砲とは、空を飛び回る航空機を撃墜するための大砲です。
正式名称は「四十五口径十年式十二糎(せんち)高角砲」という。海軍工廠砲火工場跡の地中から発見されました。
大平洋戦争中の1943年から1944年の2年間で、2,000門以上も製造されたと言われています。
また、敷地内には、第8代呉鎮守府司令長官であった加藤友三郎の銅像がありますね。
彼は広島県出身の海軍軍人で、当時軍備拡張に伴う経済負担を解消するために、ワシントン会議に主席全権委員として出席して、アメリカが提唱したワシントン海軍軍縮条約に賛成した人ですね。
1922年(大正11年)には、広島県で初めて内閣総理大臣に就任した人物でもあります。
【珍しい構造物】
旅の道中で出会った珍しい構造物を、下記記事で紹介します。
【見所④】郷土館と呉市歴史民俗資料館
郷土館の1階は、先ほども触れましたが旧呉鎮守府長官官舎へ入るための入館券を販売しています。
2階に行けば、旧呉鎮守府長官官舎を始めとする旧海軍関係の資料が展示されていますよ。代々どのような人物が呉鎮守府長官を務めていたのかも学べますね。
長官官舎を見学する前に是非、足を運んでおきたい場所です。
また、金唐紙の絵柄の手ぬぐいやポーチなどが販売していました。お土産に1つ如何ですか。
呉市歴史民俗資料館では、呉市に関する歴史的資料や古い芸備日日新聞、旧海軍関係の資料など幅広い分野の資料を集めています。
その中でも、伊能忠敬が測量する様子を描いた「浦島測量の図」と「伊能忠敬御手洗測量之図」は市指定有形文化財ですよ。特に御手洗の方は、忠敬が実際に測量する姿が描かれている国内唯一の品です。
また、金唐紙にまつわる資料もありますので、興味のある方は是非立ち寄ることをお勧めします。
【資料館や博物館の紹介】
郷土館や呉市歴史民俗資料館のような資料館や博物館では、様々なことを学べますね。下記記事では、そんな博物館を紹介します。
正門前の美術館通りは、おすすめの散策スポット
入船山記念館の正面前には、ゆるやかな赤レンガ敷きの並木道が続きます。
この並木道は、「美術館通り」と呼ばれており、著名な作家による18点の彫刻が点在していますね。
様々なアート作品を眺めながら、散策を楽しみましょう。
また、路面には戦艦大和の一生をデザインしたマンホールの蓋がいくつもありますよ。
例えばこちらのようなマンホールですね。どんなデザインがあるのかは、是非探し出してみて下さい。
ちなみに戦艦大和のマンホール蓋は、全部で10種類あり、その内8種類が美術館通りに点在してます。
残り2枚の戦艦大和のマンホール蓋は、長迫公園の近くにあるよ。
入船山記念館の基本情報とアクセス
住所 | 広島県呉市幸町4-6 |
電話番号 | 0823-21-1037 |
営業時間 | 9:00 ~17:00(最終16:30まで) |
休館日 | 毎週火曜日(ただし祝日・休日の場合はその翌日) 年末年始(12/29~1/3) |
入館料 | 一般 250円(200円) 高校生 150円(120円) 小・中学生 100円(80円) ※20名以上で団体割引きあり、()内は割り引いた1人当たりの入館料 |
【アクセス】
- JR呉駅から徒歩約13分
- 広電バス「音戸倉橋島方面行」に乗車後、「眼鏡橋」で下車し、徒歩約3分(バスの乗車時間約5分)
入船山記念館の駐車場
入船山公園に隣接する有料の入船山公園駐車場を利用しましょう。(122台・1時間100円)
まとめ
入船山記念館は、日本の近代化を体感できる施設です。
特に旧呉鎮守府司令長官官舎は見物ですよ。今では珍しい和洋折衷の外観や、美しい金唐紙が使われた部屋は一見の価値があります。
その他にも東郷元帥ゆかりの住宅やお洒落な正門、旧海軍工廠塔時計など見所も多く、見学するのは楽しいですね。
広島県呉市へ訪れた際には、足を運んでみては如何でしょうか。